3 道太郎との別れ(1/3)

 20年を過ぎた頃から道太郎の身体劣化は進み、終盤の2年間は腹壁と胃に穴を開け、直接チューブや点滴で栄養を送る有様で、言葉も発することができなくなっていましたが、それでも次男の顔を見るたびに生命いのちの灯が灯るようでした。自分以外の他人をこれほど愛せるのかと思うほど彼は弟を喜ばせようと努めていました。そのときにはまだわかりませんでしたが、後日、次男の妻となる女性がお見舞いに来てくださると、必死にニコニコしようとしているようでした。

 彼女もお医者さんであることを聞くと「スゴ~イ」という表情をしてとても嬉しそうでした。そのとき彼にはむし・・のしらせで、彼女が弟のお嫁さんになるということがわかっていたのでしょう。愛する弟の連れてきた可愛い彼女に会えたことは、道太郎の人生の中でもっとも大きな喜びの瞬間だったに違いありません。

 喜びの日からまもなく、とうとう身体がまったく栄養を受けつけなくなりました。それでも2か月間生きて、その間もずっと「ニコニコして! ニコニコしないと死んじゃうから!!」と耳元で囁くと、彼はそのたびに「ニコッ」としようとしました。