1 エッ、息してる!

私は息子殺しになる寸前でした。

道太郎を殺して私も死ぬつもりだったのです。

 脳内出血で18時間に及ぶ開頭かいとう手術の後、植物状態が続いていた頃のことです。我が子道太郎は、シャンデリアのようにたくさんのチューブにつながれていました。管から強制的に栄養をどっさり入れているのに、日ごとにどんどんやせて、小さく干からびていく我が子を見つめていても何もしてやれず、あせりとあきらめとイライラで、私は半病人のようになっていました。酸素を送る機械の音がまるで死に向かって進む足音のようで、「あっ、イヤッ」って思った私。その後は全く記憶がありません。

「お母さん、何をしてるの!」

 怒濤どとうのような看護婦さんの声で現実に返った私。たくさんたくさんつながれていたチューブや取りつけられた機械の線をすべて外された道太郎が、私の腕の中にいました。

「誰が取ったの?」「いつ外したの!」看護婦さんの詰問きつもんが飛ぶなか、

 グダッとした道太郎の息は薬臭く苦しそうにあえいでいます。

「アラッ、私どうしたのかしら? もう、道太郎は腕の中で息をしていないのね……? 薬臭いな、なーに? 薬臭い息! エッ、息してる! 道太郎が息をしてる。人工呼吸器に頼らず自分で呼吸している! できないはずの自力呼吸! 薬臭くたって構わない! 自分で息ができるんだ!」

 それに気づいたとたん、自分が無意識下でしようとしていたことの愚かしさと、心の底から湧き上がってくる希望が一緒になって、全身ガクガク震える思いで立ち上がることができませんでした。夏でも冷たく感じる病室のリノリウムの床の上に小さくなってしまった道太郎をしっかり抱きしめて、いつまでもいつまでも座り込んでいました。

 その時、道太郎は12歳。脳内出血の手術をし、植物状態になってから3か月が過ぎていました。道路がぐにゃぐにゃに見えるほどの暑い暑い夏の日でした。