1 生きる力 活かす力(2/4)

 数年が経過したある日……その日も大変な一日でした……。

 世間中が寝静まっていると思われる深夜のことです。魔が私を押したのでしょうか、人としてやってはいけないことをしようとしていました。息子の汚物のついた身体をタオルで拭きながらつぶやいていました。

「もう、生きていてもしょうがないよね、だって治らないのだもの。こんな情けない姿で……。何もできないまま、生きている意味なんてないものね。お母さんと一緒に天国に行こうか?」

 息子は天国という言葉に眠りながら一瞬反応したかのように、かすかに微笑を浮かべました。身体を拭き終わって、最後にその微笑のある顔を拭き始めたとき、無意識にタオルを持つ手が彼の鼻と口の上に止まっていました。ほんの1、2秒のことでしたが。

 はっ! と気づくと、道太郎は懸命に私の手を引っ張って首を左右に動かしていました。かっと眼を見開き、私を見つめるその眼からは涙があふれています。私の手がゆるむとタオルを取り去った口元がとがって、まだ元気だった頃、私に文句を言っていた顔がそこに現れていました。

 医学的には植物状態で人の機能はすべてないに等しいと言われ続けてきた息子が見せていた表情でした。表情が作れる! 感情がしっかりあるんだ!!

 こんなヒドイ状況の中で生きようとすることができるなんて。なんて! なんて! 生きる力を持っているのだろう!! 私の心は一転して喜びがあふれてきました。