心配とお祈りの日々

翌日から忙しいお母さんの生活の中に、午前中の面会15分、午後3時からの面会15分という面会の日課が加わりました。夕刻から店も開けなくてはなりませんでしたが、電車賃を節約するために、お母さんは編み物を持って病院へ行き、午前中の面会が終わると午後の面会までずっとお仕事の編み物をして待合室で過ごしました。きょこちゃんはみぃちゃんとお留守番です。裏のおばちゃんが事情を知って協力を申し出てくれました。

「みぃちゃんを夜まで家で遊ばせたげる」と言ってくれたのです。みぃちゃんは小さな子供のいない裏のおばちゃんを“あーやん”と言って、とてもなついていましたからお母さんも安心です。

お母さんは帰ってきてお店を開店させますから、休む間もなく仕事を始めます。きょこちゃんは1日中ビクビクしながらよっちゃんのことを考えていましたから、我慢できずにお母さんの後ろ姿に向かって

「ねぇ、よっちゃん、どうなったの? よくなった?」

と尋ねました。しかしお母さんは振り返らず、手も休めずに

「分からないの。まだどうなるか全然分からない!!」

と言うばかりです。

病状がはっきりしないまま2週間が過ぎました。お母さんは益々無口に、益々痩せてしまいました。

きょこちゃんはその間に森下町のカソリック教会へ行くようになっていました。教会までは歩いて30分くらいですが、以前裏のおばちゃんに連れていってもらったことがありました。

きょこちゃんはよっちゃんのことを神様にお願いするために、教会に行ってお願いした方が神様に聞いてもらいやすい、と考えたのです。

汗を流しながら森下町まで歩き教会に入ると、そこは大通りに面しているにもかかわらず、シーンと静まり返ったひんやりとした空気の別世界でした。

祭壇の前に座ると、もうそれだけで神様の存在に近づけたような感じです。きょこちゃんは必死でお祈りしました。

「神様お願いします。よっちゃんを治してください。よっちゃんはまだ1年生になったばかりです。だからまだ死なないようにしてください。ポリオ・・・・・・という怖い病気にしないでください。障害を作らないでください。助けてくださったらとても良い大人になると思います。

お母さんが心配しすぎて病気にならないようにしてください。お母さんはよっちゃんのこと、赤ちゃんの時からずーっと心配しているんです。もし、子供の命がいるんでしたら、きょこちゃんのにしてください。きょこちゃんはよっちゃんのようにボロ・・・・・・人形を大事にするやさしい子ではないし・・・・・・大人になったら困るから・・・・・・って、いつもお母さんに言われています。

あのう・・・・・・きょこちゃん、悪い子じゃないと思うけど・・・・・・お母さんにはきょこちゃんより、よっちゃんの方が必要だと思うの・・・・・・で・・・・・・神様、お願いします。よっちゃんを治してくださるのなら、きょこちゃん、神様のおそばでずーっと天使の奴隷として働きます。天使の奴隷になるのには死んじゃわないとなれないんでしょ? だからきょこちゃん、死んじゃってもいいです。よっちゃんを元気に治してください。神様、お約束してください。よっちゃんを治すって・・・・・・」

物語で読んだ神学知識でデタラメな自分の思い込みでしたがきょこちゃんは真剣でした。

真剣に全身全霊でよっちゃんを治してもらうために神様と約束を取り付けようとしていました。

教会へ通うこと以外、他によっちゃんのためにできることは思いつきませんでしたから、毎日の何時間かを教会でのお祈りで過ごし、夜はまた神様にお祈りをしてから眠りました。

(続く)