特別なお土産
『ビーッ』
マスクのおじさんが話している耳にあるイヤホンに無線が入りました。
「はいっ! はい。多分その子なら、ここにいる子だと思いますが・・・・・・。はい、わかりました」
「君は工場見学の・・・・・・」
「はい、3組のきょこちゃんです」
「やっぱりそうか、みんな探してるみたいだよ」
「あっ! そうか! どうしよう!」
「大丈夫、大丈夫、いま、他の人が迎えに来てくれるから、ここで待っていたらいいよ」
「ハイ! でも知らなくてここに入っちゃったけど、ごめんなさい! きょこちゃん、バイ菌ついてないと思うけど・・・・・・カビもついてないと思うけど・・・・・・、麹菌たちに悪いことしてないかしら?」
「ハッハッハッハッ! そんなこと心配してたの? 大丈夫、大丈夫。君1人くらいより麹菌の方が強いさっ!! でもこのことは内緒だよ。皆が注意しなくなるといけないからね」
「はい」
お迎えには工場長さんが来てくれました。
「ごめんなさい、迷子になっちゃって・・・・・・」
歩きながら
「どうして右端のドアに入ったの?」
と質問されました。
「だって・・・・・・次のコースって言ったでしょ? 大豆の蒸されてるお部屋から始まって、大きな桶のお部屋を見て、だから次は3番目のお部屋でしょ。左から順に1、2、3、って数えて、3番目のお部屋は1番右はじのドアなんですもん」
きょこちゃんは続けます。
「3匹の子ブタだって、3匹のクマだって、金の斧・銀の斧だって、いつでも3番目が1番いいことにつながっているでしょ? だから最後のコースは1番いいことにつながっている筈の、1番右はじのドアだと思ったんですもん」
「ほぉーっ! そうか! いいこと教わったなァ! でも今度からは【ここがコースの順路です】、って真ん中のドアに張り紙しておこう! 真ん中のドアが3番目のコースのドアで、オートメーション工場につながっているんだ。そして、左端、つまり1番目のドアは最初見た大豆を蒸す工場と大桶の工場につながっているし、君の入った3番目の右端のドアは培養室や研究室につながっているんだよ。まさか右端にある3番目のドアが1番いいドアだと思う子がいたなんて思いつかなかったなぁ・・・・・・」
工場長さんと笑いながら話をしているうちに玄関口まで歩いてきていました。
「あら? みんなは?」
「みんなはオートメーション工場からもうすぐここに合流してくるよ。オートメーション工場見学できなくて残念だね、また今度いらっしゃいね。あ、そうそう、オートメーション工場通る人には、お土産の醤油を渡すのだけど・・・・・・。持ってきてもらおうね・・・・・・」
工場長さんが電話をかけようとしました。きょこちゃんは思い切って言いました。
「あのね、きょこちゃん、お醤油嬉しいけども・・・・・・、違うものじゃいけない?」
「えっ? 違うもの? 何だい?」
「あのう・・・・・・、あのね、麹菌・・・・・・あっ、ちょっとでいいのだけど・・・・・・。繁殖させてみたいの」
「へぇーっ! それはいいねぇ、でも増やしてどうするの?」
「うーんとね、お母ちゃん、いつもいつも忙しくお店で働いているから、甘酒作ってあげたいの。お母ちゃん、甘酒だーい好きなんです!!」
「そうか、よおし、わかったよ。持ってきてもらおうね。でもみんなにと言う訳にはいかないから、みんなには内緒でね」
「はい! ありがとうございます!」
工場長さんは内線電話で頼んでくれました。
「麹菌を少し持ってきてくれないかな? うん、そうそう、さっきの子がね欲しいんだって」
(きっとさっきのマスクのおじさんと話しをしているのね)きょこちゃんが楽しみに待っていると、麹菌を入れてガーゼのフタをした小さなガラス器を持って、さっきのおじさんがマスクを外して来てくれました。
「はい! どうぞ! 麹菌は生き物だからフタをしちゃだめだよ。息ができなくなるからね。それに麹菌は寒いのが苦手なんだ、だからこれに包んで大事に持って帰って温かい所に置いておくんだよ」
おじさんは菌の入ったガラス器を包むようにと、親切にタオルを2枚持ってきてくれたのです。
「ところで、麹菌を育てて何をするつもりなの?」
「はーい! 甘酒でーす」
「働いてるお母さんの好物なんだって」
と工場長さん。
「そーか、じゃぁ作り方教えとく?」
「はい! お醤油と同じじゃないの?」
「材料が全然違うんだよ。お醤油は・・・・・・」
「はいっ! 知ってます! 今日ここで教わったもの。大豆です」
「そう、よくできました! 甘酒はね、お米で作るんだよ。炊いたお米が少し冷めてから、暑いと菌が死んじゃうからね。でも冷たいご飯だと発酵できないから甘酒にならない。ここが1番難しいところなんだよ。そうだなァ、君の体温ぐらいにご飯が冷めたら、そこに麹菌を入れて他のカビが入らないようにガーゼかさらし布でフタをして寝かせておくんだ。そうして2・3日たつと透き通ったお水が上がってくる。そしたら甘酒になっているんだ。どうだい? できそう?」
「はい! 大丈夫! 頑張ります!」
「たのもしいなァ・・・」
3人が笑いながら話をしていると清水先生が息を切らして駆けてきました。
(続く)