どんどん田舎へ
「1つは後できょこちゃんと食べましょうね。それからね、あとの2つはおじいさんとおばあさんに、『きょこちゃんからお土産です』って渡して欲しいの。うちのおじいさんとおばあさんはダルマ弁当が大好きだから、きょこちゃんからもらったらきっと喜ぶわ」
加代子お姉ちゃんは家を出る前におばさんから、気難しいおばあさんに、きょこちゃんからと言ってダルマ弁当を買ってくるように言われていたのでした。
おばあさんはおばさんのだんな様の継母さんで、人が来るのが嫌いなたちらしく
「妹の子が東京から来ますのでよろしくお願いします」
とおばさんが伝えると、
「ふんっ! 何も相談なくいきなりお願いかい!! あたしは嫌ですよっ! 小さな子がうるさく飛び回るのは! それに人様の子を預かって、もし何かあったらどうするのかえ? あーぁ、嫌だ嫌だ」
「決してうるさくさせませんから、どうぞよろしくお願いします」
「ふんっ!」
と、・・・・・・まぁ、そんな風でしたから大好物のダルマ弁当で少しは気持ちを和らげようとしたのです。
そんなことはつゆ知らず、1人で汽車に乗って高崎まで来られたという達成感も手伝ってきょこちゃんは田舎の家に行くのをとっても嬉しく感じていました。
「わぁ!! ダルマ弁当?!」
ローカル線に乗ってからお姉ちゃんが手渡してくれたダルマ型のセトモノお弁当箱を開けた途端、田舎へのワクワク感があふれ出しました。
「わぁ!! ステキ!!」
桜色のでんぶと黄色いいり卵、鳥のそぼろに赤しょうが、椎茸、山菜とみかんの水煮が彩りよく茶飯の上にのっています。
きょこちゃんはさっきおむすびを食べたばっかりだったので、少ししか食べられませんでしたが、残りを加代子お姉ちゃんがきれいに食べて容器を大切にしまいました。
「後で漬け物入れるのに便利だから・・・・・・ね」
そうこうしているうちに、ローカル列車は終点に着き、バスに乗り替えました。
「いなかーのバスはぁ、オンボログルマァーー、デコボコミチをガタガタ、ハァシィルゥ~~♪」
古いバスが走りだすとガタガタ言うし、時々はきょこちゃんをビョ~ンと座席の上で飛び上がらせます。
そこできょこちゃんは以前近所のおばさんが教えてくれた歌を思い出して歌い始めました。
誰かがクスッと笑いました。きょこちゃんは始めのところしか覚えていませんでしたから、そこだけを何回も繰り返し繰り返し歌っていました。
加代子お姉ちゃんはバスに酔ってしまうので眠りたかったのですが、きょこちゃんと一緒ではそうはいきません。
「ねぇ、お姉ちゃんも一緒に歌いましょ! ねぇ、お姉ちゃん!」
「いなかーのバスはぁ、オンボログルマァーー、デコボコミチをガタガタ、ハァシィルゥ~~♪」
きょこちゃんが元気よく歌い、お姉ちゃんはちょっとだけ口を動かしていました。
すると!!
白いブラウスを着た大きながま口鞄を下げたバスの車掌さんが続きを歌ってくれました。
「それでもお客さん、ガマンをしてくれるぅ。そぉれぇはぁ、わだすが美人だからぁ~~」
車中の人たちは大笑い、大喜びで皆一斉に歌い始めました。
「いなかーのバスはぁ、オンボログルマァーー、デコボコミチをガタガタ、ハァシィルゥ~~♪」
「それでもお客さん、ガマンをしてくれるぅ。そぉれぇはぁ、わだすが美人だからぁ~~」
「ハイッ!!」
(続く)