おばあちゃんは?〔その2〕

きょこちゃんはお昼を食べてなかったので、おばあちゃんが作っておいてくれたあられをポリポリ食べ始めました。おじちゃんも一緒に食べました。

「懐かしいなぁ。母がよく作ってくれたもんですよ。こういうことをしてくれる年寄りは宝物ですよね」

「嬉しいですわ。母が聞いたら、どんなに喜ぶことでしょう」

お茶を入れながら、おばさんは目をうるませています。

「ただいまっ!!」

「あっ!! 大ちゃんだっ!!」

きょこちゃんが腰をうかせます。息せき切って飛び込んできた大ちゃんの後に目を走らせて、みんなが一斉に聞きました。

「おばあちゃんは?」

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・、渋谷駅まで送った。帰りに、炭屋のお兄さんにミゼット、乗せてもらった・・・ハァ・・・ハァ・・・」

「それで? それで、おばあちゃんは?」

「ハァ・・・ハァ・・・帰った、田舎に」

「えぇっ!!」

がっかりして、きょこちゃんはソファにクタッと座ってしまいました。

「どぉして? 連れて帰るって言ったじゃない、ここん家(ち)の子だって言ったじゃない」

大ちゃんは、大ちゃんのお母さんが持ってきてくれたお水をゴクゴク飲みほすと、元気よく話し始めました。

「おばあちゃんに追っついてさ、家の子だから家に帰ろう、田舎に帰っちゃいけないって言ったら、びっくりしてた」

「きょこちゃんとデパートのおじさんが、おれが、おばあちゃんいらないって言ったと思って、仕入れにきてんだって言ったら」

「あら、そう言ったじゃないの」

「本気じゃなかったんだから、オレはって言ったら、おばあちゃん、ウンウン、わかっていますよ、大ちゃん、おばあちゃんのこと大好きだったんだものねぇ。小さいころ一緒にお風呂入って、おばあちゃんの背中洗ってくれたものねぇって、泣いちゃったんだ・・・、うっ、うっ、うっ・・・」

話しながら大ちゃんも、手の甲で自分の目を何回もこすりました。

「うっ、うっ・・・おばあちゃん、年とっちゃって、ごめんねって言ったんだ。だから、オレ・・・、だから、オレ・・・年とったから、余計おばあちゃんのこと・・・オレ・・・好きなんだよって・・・、うっ、うっ・・・」

「そうか、そうか。偉いぞ、大ちゃん」

「ほんと、ほんと、よく言ってくれたのね、大ちゃん」

「それで? それで、おばあちゃんは?」

「おばあちゃんは、大ちゃんの子だって、よぉくわかったから、もう一人で田舎に帰っても、さびしくないってさ。そしてまたすぐにこっちに来るって。だからボロは、あずかっておくよって言ったんだ」

大ちゃんは何だかとってもうれしそうに、お顔を輝かせていました。

「ふうぅーっー!!」

きょこちゃんは、ずーっとあの日以来、胸のどこかに何かつっかかっているような気がしていましたが、今それがすーっと取れたのを感じました。

「おばあちゃん、年とったって、だあれもいらないなんて、思わないって知っててくれて、本当によかった!!」

「ご苦労様、きょこちゃん。よかったね、大ちゃんとおばあちゃん。でも、おばあちゃんを仕入れられなかったけどねぇ」

「うぅん、いいの。おばあちゃんが悲しそうなの治れば、仕入れられなくたっていいの。大ちゃんの子ならいいの。きょこちゃん、だんぜん平っちゃらよ」

「じゃあ、ミルク飲み人形、持って帰ろうね」

「はいっ!!」

「おばあちゃん、買えなかったの、本当にもう大丈夫?」

「はいっ!! きょこちゃん、いいこと考えたの」

「なあに?」

「きょこちゃんのお母さん、妹のよっちゃん生んでくれたでしょ? だから、今度はおばあちゃんを生んでって、頼んでみるの」

「・・・・・・」

(おわり)