死ぬのを決める丁か半(4/5)

 

 次に彼にお会いしたのは、4か月あとでした。どうしても面談したいという申し込みがあったので、入院先の病院まで会いに行きました。会いに行ってもどうにもならないって分かっていていくのは辛いものです。

 同一人物とは思えないほどゲッソリした彼は、私の目を通りこして、私の後の方にうつろな眼を向けながら、苦しそうな息づかいでした。本当に会いたかったのは私にではなかったのです。だって彼のうつろっぽい眼はとても何かに飢えているようでした。

 すべての希望を失った人特有の満たされない絶望の冷たい息をしていたから、ずっと想い続けていた彼女のことを打ち明けていた私に会うことで、彼女に会う代用にしたかったのかもしれないと感じたのです。

 「センセイ、僕はもう生きられないと思うのです。まあ、思い残すことはないし・・・・・・。ただひとつ気がかりだったのは、センセイにつまらん相談をしてしまったので、センセイが心を痛めたままでは、ということが気になって、ご無理いって出張していただきました。結局、優柔不断だった自分が一番悪かった。いまさら遅すぎるけど・・・・・・。はっきり決められないと思い込んでいたけど、いつでも決められたんですよね。今はもうすっきりしています。だから、センセイ、心配しないでご相談したことは忘れて下さい。今日は御礼とお別れが言いたかった」。

―――彼の目はあいかわらず私ではなく、その向こう側をみているようで静かに澄んでいました―――そして話し終えるとホーッと息をはきました―――。

 「お別れだなんて! また元気になればやり直すことだって不可能じゃないと思う! それに、ちっとも苦しそうじゃないでしょ。病気おさえられてるのよ、きっと! もうすぐ死ぬ人になんて全然見えないわよ!」。

―――私は馬鹿みたいに必死に言ったの。

 「センセイ、センセイには分かっているでしょ。いただいたサプリメントのおかげで苦痛はあまりないんだけど・・・・・・でもね、時々、息が止まるって予感みたいな感じがするんです。もうすぐだってね・・・・・・。ああ、センセイに会ったら、なんかすごく楽に息ができるようになったなぁ・・・・・・」。

―――そして泣き出してしまいました。今までにこやかにひとことひとこと、苦しさを追い払うように言葉を選び選び、しっかり話していた彼が、声を殺して泣きじゃくり出したのです―――全身をふるわせて。

―――全霊が泣き出したように―――。