死ぬのを決める丁か半(2/5)
告知のショックから立ち直れず、死と直面した時、どうしても心底気にかかっていた前に別れたままの彼女に連絡してみたら(と苦笑いしてらした)―――未練だなぁと思いながら―――自分が死と直面した時にはじめて、本当は何がしたかったのか、どう生きたかったのか分かった気がしたそうなのです。
彼女は元のままのやさしさや大らかさで彼を包んでくれたそうです。でも、会いたい、会って欲しいと言うと(自分の病気のことはとても言えなかったらしい)、
「私はずっと待っています。もし、あなたが自由な立場で私と会うのでなかったら、誰かをまた傷つけることになるんじゃないですか? そして、また同じことの繰り返しはいやなんです。あの時の辛さは15年たった今も、変わらず私を苦しめているんですから・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
彼は返す言葉もなく、ただただ、この15年間手にできなかった深いやすらぎとやさしさや愛を感じ、同時にそれを手にできるチャンスをずっと逃していた自分を恥じ、また、15年間自分への想いを断ち切らず、待ち続けてくれている彼女へ畏敬の念を抱いたそうです。
それはそう。ひと言も連絡しないで、ただひとりの人を想い続けられますか? 15年間も。何の見返りも条件もなしにです。
近頃のお手軽カップラーメン・ラブとは全然違って、ここまでくるとかえって潔さを感じませんか?
そして、彼は彼女への申し訳なさと自分への嫌悪、また、反面喜びと誇りも感じて、その夜のうちに奥さんに理由を聞かずに別れて欲しい。全財産もこれからの収入も何でも思うままにするから。あとどの位もつか分からない命なら、好きに生きてみたいんだって頼んだそうです。
ところが、奥さんはもちろん理由も聞かずにノーと答え、あとはいい歳をして世間体や嫁いだ娘が可哀想だとか、自分は自殺するとか言うんだそうです。