死ぬのを決める丁か半(1/5)

 

 広報マン氏48歳の場合。肺ガンの初期治療中に相談を受けました。

 きっかけはある雑誌の対談で「家庭は裁きの場になってはいけない」と発言した私のコメントを読んだことからだったようです。

 相談室で、今までずっと休まず、たゆまず、走り続けてきた企業戦士がちょっとしたミスで窓際族になってしまったとお話ししてくれたのです。

そして時間ができたので、人間ドックに入ったら肺にガンが発見されたのだそうです。

 進行性のものだったので、彼は覚悟を決めてずっと15年間気になっていたことを奥さんに切り出したのです。

 15年前、彼はある女性を好きになってどんなことでもするから離婚してくれって頼んだそうです。

 奥さんは子供を殺して私も死にますと言うので、いつも特に愛情表現をしない見合い結婚の奥さんも、自分と別れるくらいなら死ぬ覚悟になるほど愛してくれていたのかと感じたそうです。

 相手の女性も、罪のない子供や死をかけて夫を愛する奥さんを犠牲にしてまで、自分の幸せは望めないと、いわば身を引く形で離れていったのです。

 一度は元に戻ったかのようにみえたけど、奥さんはその後、自分と子供を裏切ったと何かにつけて夫を責めるかたわら、自分はカルチャースクールやら、旅行やらと飛び回りはじめたのです。

 娘の前でも皮肉っぽく接するので、そんな中で成人したひとり娘は自分に打ちとけてくれないまま、結婚して家を出て、そして夫婦ふたりの生活に戻った矢先の病気告知だったらしいのです。