5 結婚して看病し合えばいいじゃない(1/2)
そんなある日、納戸茂歌子さんがおとなしい感じの男性と一緒にやってきました。彼女は困ったような、照れたような表情でその男性を紹介しました。彼女は口ごもりながら言いました。
「センセイ、この人32歳なんです。私と16歳も年が違うのに結婚したいって言うんです。私と結婚できないって言ってやってほしいんです」
私は答えました。
「えっ、なんで結婚できないの? 反対する人がいたら駆け落ちしたっていい年でしょ!?」
私は男性の目をじっと見つめながら言いました。
「だってセンセイ、私の病気……」
彼は、歌子さんの言葉を遮るように素朴な口調で言いました。
「僕はおふくろの顔、知らないんす。僕が生まれてすぐ死んじゃったもんで、ばあさんに育ててもらったんです。でもばあさんは、僕が生まれたせいで娘が死んじゃったと思い込んでいたので、きびしいばっかでずーっと淋しい思いで暮らしてたんです。年に2~3回しか会わない親父も、僕が高校1年のとき死んでしまって。たまにしか会わない父親でもやっぱり淋しかったです。でもこの人に会ったとき、もしおふくろが生きていたら、この人みたいな人かなって思いました。毎晩、酒飲めないのにカラオケに行って、この人の歌うのを見てたら、世の中にこんな優しそうな、いい女の人いないんじゃないかって思ったんです」
顔を紅潮させて、とつとつと懸命に話す彼の言葉を引き取って、歌子さんが言いました。