白髪の紳士と商談をスタート
(何分位たったのかしら?)
ちょっと待っていて、と言ったわりには、時間がだいぶん経ったように思えました。
(きっと、あんまり大きな宝石だもんで、お店のお金が足らないのかしら?)
「お待たせしてごめんなさいね。どうぞ、こちらにお入りください」
明るい店内から通されたお部屋は薄暗く感じて、目が慣れるまで少しの間何もはっきり見えませんでした。
「どうぞ、こちらにいらっしゃい」
部屋の奥の方から、落ち着いた男の人の呼びかけがありました。
「コンニチワ!」
(ドキッ、ドクッ、ドキッ、ドクッ、アタシの心臓の音、周りに聞こえないといいけど)
気がつくと、案内して下さった年配の女店員さんは一礼をしてドアを閉めて出て行ってしまって、きょこちゃんは黒い服を着た白髪の立派な紳士の前にひとりで立っているのでした。
「どうぞ、お座り下さい」
「ハイッ!」
元気よくソファに座ると、フッカリしたクッションに身体がスッポリ埋まって、足が宙に浮いてしまいました。
きょこちゃんはお顔が真っ赤になるのを感じながら、それでも威厳を保とうとして必死に足を床に着けました。
「江東区から歩いて来たんだって?」
「ハイッ!」
「1人で来たの?」
「ハイッ!」
「この石を抱えて、1人で歩いてきたの?」
「ハイッ!」
この時、初めて紳士ときょこちゃんの間にある黒いテーブルの上に、きょこちゃんのお宝―――石が置いてあるのがわかりました。
新聞の切りぬきも一緒に置いてありました。(いよいよだわ、ドキドキ・・・)
「何時にお家を出てきたの?」
「えっ、ハイっ、7時ごろだったです」
ですは、言葉を丁寧にしたくって付け足しました。
「もうお昼を過ぎてるねぇ、おなか空いていないの?」
(おなかが空いてないかですって? アタシにおなかがあったなんて忘れてたもん。だって、もうすぐ、もうすぐすっごい大金持ちになっちゃうってこと知ってるのに、おなか空いたりなんてしないもん)
「ハイッ、大丈夫です」
「でも、これなら食べられるでしょ?」
知らない間に、さっきの若い方の店員さんが、お盆に氷の入った麦茶とショートケーキがのったお皿を2つずつ持って後に控えていました。紳士の合図できょこちゃんの目の前のテーブルに、麦茶とショートケーキののったお皿が置かれました。
「さあ、どうぞ」
「はいっ!」
(大事な商談【こういうの商談って言うんだって、本で読んで知ってる】前ですからノドなんて渇いてなくたって、紳士の気を損ねたくないもの、何でもいただきます)
「ゴクッ」(あっ、この麦茶、お砂糖入ってる!!)
ひと口飲んで、そう感じたとたん、きょこちゃんのノドの下の方から急に渇きが押し寄せてきて、ゴクッゴクゴク、一気に麦茶を飲み干してしまいました。
「よかったらこっちのもおあがりなさい。私はさっきお昼をすませたばかりだから。それと、よかったらショートケーキを両方とも食べてね」
(続く)