初めての給食

よっちゃんの妹、みいちゃんが生まれて間もなく、学校で給食が始まりました。幼稚園に行かなかったきょこちゃんは給食のことは何も知りません。

お母さんから『お昼は、今日から給食ですよ』と説明されて(そのお母さんもお給食は知りませんでした)

「お弁当、持って行くの?」と聞きました。

お父さんみたいにお弁当を持って行って学校で食べることが給食だと思ったのです。

「いいえ、みんなで同じものをいただくのよ。学校のお台所で作ったお食事を」

「ふぅん」

そこで、きょこちゃんは自分のとよっちゃんのお弁当箱を空で持って、学校に行きました。空のお弁当箱にお弁当を入れてもらうのだと思ったのです。

ところが!! 給食時間になると、上級生が1年生に1人分ずつ、アルミのトレイに乗せてお食事を運んできてくれるではありませんか。

「わぁっ!! すっごい!!」

きょこちゃんは、大感激で自分の分の1/2をセッセと、お弁当箱に詰め始めました。

「あれぇ、何してるの? きょこちゃん」

うえくさ先生がニコニコして、そばに来られました。

「きょこちゃんね、お姉ちゃんだから、何でもよっちゃんに、半分っこするの」

「そーか、えらいんだねぇ、きょこちゃんは。さぁ、みんなでいただきますをしようね」

「はぁーい」

「いただきまぁす!!」

「いただきまぁす!!」

初給食のメニューは、コッペパンにマーガリン、千切りキャベツとホーレン草のサラダ、ハムカツとミルクでした。それを、先が割れているヘンテコなスプーンで食べました。

よっちゃん、学校にくる

初めてのお給食を半分、お弁当箱に入れて持って帰るとお母さんはびっくりして『明日からはそんなことしてはいけませんよ』と言いましたが、よっちゃんは大喜び!!

「わぁっ!! 学校っていいなァ」

ソソラ ソラ ソラ ウサギのダンスを踊り出しました。 次の日の3時間目のことです。

「ウフフ」

きょこちゃんのイスの横によっちゃんが割り込んで座ってきました。よっちゃんは鼻のアタマに汗をいっぱいかいていましたがとってもうれしそうです。

「どこからきたの?」

「あっち」

きっと、1人で歩いて、テラスから入ってきたのでしょう。

「だめよ、来ちゃいけないの」

「ヤン」

「だってここは、1年生しか来ちゃいけないのよ。困ったなァ」

よっちゃんはニコニコ嬉しそうなお顔から、急に泣きそうなベソ顔になっていました。

「アッ、泣かないで。よっちゃん、1人で来たの?」

「うん」

「そーか、えらかったのねぇ」

黒板に計算を書いていらっしゃった先生が、

「どうかしました? どうしたの?」と、よっちゃんに気づいて、尋ねられました。

「よっちゃんが・・・妹が、学校に来ちゃったんです」

「よっちゃん、お母さんに言ってきたのかな?」

「ううぅん」

「じゃぁ、心配されてないかなァ」

「ううぅん、お母ちゃん、赤ちゃんで忙しくって、よっちゃんのこと気がついていないの」

「そーか、でも、ここは学校に通えるようにならないと、来られないんだよ」

「よっちゃん、通える」

「困ったなァ。1人で来たの? 1人で帰れる? 先生、送って行こうか」

「ヤッ!! よっちゃん、お給食食べてから帰りたい」

たまりかねてきょこちゃんは立ち上がりました。

「先生、よっちゃんは、ワタシのいっちばんの仲良しなの。みんなは、ずーっと仲良し達と学校に来ているのに、きょこちゃん…ワタシは1人だけ仲良しがいなかったんで、1人だけで、ずーっと学校に来てたんですもん。よっちゃんが来てくれたら、おあいこになるんです!!」

さくら組のほとんどの子供達は、幼稚園の時のお友達か官舎(警察官舎がありました)のお友達同士で、知っている子が1人もいなかったのはきょこちゃんだけでした。今では、サワコちゃんやヤヨイちゃんという仲良しもできていましたが、1人で歩いて汗をかいて自分の元にきたよっちゃんを無理やり追い返すのは可哀想すぎると思ったきょこちゃんは一生懸命説明しました。

うえくさ先生はちょっと考えてから、

「じゃあ、今日はお給食食べたら、きょこちゃんと帰りなさい」
―――そう、おっしゃいました。

「よっちゃんもおイスに座りたい。よっちゃんのおイス?」

「さぁ、ここに、お姉さんの横にお机、ここにおイスを置くよ」

「わぁーい」

「はぁい」

きょこちゃんが、そっと、よっちゃんにエンピツとノートを渡すとよっちゃんは、何だかわからない線をグチャグチャ書いてすっかり満足です。

(きっと、自分もお勉強しているつもりなんだわ)

きょこちゃんもにっこりしました。

(続く)