サービスのプロ(3/5)
部屋に入って程なく彼からルームフォンがきました。
「万事OKです。帰国の際、こわれたベルトを持って航空会社の旅客サービスデスクの3番に行ってください。新しいベルトを受け取れるはずです。ただあなた様の可愛いピンクのトランクに合う、ピンクのベルトが用意できないと言っていますので、その点は申し訳ありませんでした。これでよろしいでしょうか?」
「いいも何も、弁償してもらえるなんて思ってもいなかったから、とても嬉しいわ! ありがとう。」
「お役に立てて良かったです。それではグッドナイト。」
この会話で素敵な気分になりました。
翌朝、ツアーに出発する前にフロントに「ハンスに渡してください」とメッセージを残しました。
ありがとう! とってもとっても嬉しかったです。ご親切に感謝しています。
一緒に日本の「おかき」と2000円位のチップを同封しておきました。
夕方、ホテルに帰るとハンスがとんできました。
「今朝はありがとうございました。メッセージも、ライスクラッカー(おかき)もとても嬉しかったです。ただチップは多すぎました。あれでは新しいベルトを買った方がいいでしょう。失礼でなければ半分お返ししたいのです。」
―――それは彼のホテルマンとしてのプライドが言わせたセリフだったのでしょう。何となく目頭がジーンとして、私はすぐにそれを受け取りました。
「ありがとう。このお金はまた他の人を喜ばせることに使うわね。」
彼は心からホッとしたように「サンキュー、マーム」と初めて笑顔を見せてくれました。