4 コレで会社を辞めますか?

 

 1年後彼は発作を心配することなく復職し、普通の生活に戻って毎日を楽しんでいました。ときどき顔を見せにやってくる彼は笑いながら、小指を1本立て、

「『アナタはコレで会社を辞めますか?』はいいけど、コレで(自分の頭を指さして)会社を辞めますか? にならないように気をつけます」

 と照れたような、晴れ晴れしたような表情で言ってくれました。

「ああ、あの頃のあなたの脳内は、カサカサの栄養不良になって、ひどい脳足りん状態だったもの」

 私も嬉しくなって軽く答えました。

「それ、それ、また京子センセイに脳足りんになったねって言われないように、脳内栄養素をしっかり摂っていますから」

 彼はしみじみ続けて言いました。

「あのままだったら、本当におかしくなって、みんなに廃人になったって言われていたけど、本当にそうなっちゃっていただろうなあ。3年以上も無駄にしたけど、まっ、よかったよなあ」

「あらっ、無駄にしたんじゃなくて、その間あなたは本当の時間を過ごしていなかったのよ。だから3つも年を取らなかったって思えばいいじゃないの。同じ年に生まれたのに3年も若いってね。そして、あなたが経験したことで、同じような病気で苦しんでいる人を助けてあげられれば、もっと生きた3年間になると思うのよ」

 どの例もこうして、終わりよければすべてよしのハッピーエンドになってくれるといいな、と常に願っています。