1 生きる力 活かす力(4/4)

 魔の体験をした日から彼を再びよくよく見直し、観察し始めました。それまでは失われたことばかりに目がいっていたので気づかなかったのでしょうか、新たな発見が次々と現れ始めました。

 「ミッタロくん、ニコニコしてね。いつもニコニコしてね。ニコニコしないと死んじゃったと思われちゃうよ」

 と話しかけると彼は急に、あの晩のようにパッと灯が灯ったように顔をニコニコさせます。事情が分からないヘルパーさんたちは

 「わあっ、お母さんってすごいですね、ミッタロくんがこんなにニコニコしてる!!」

 と、大喜びしてくださいました。しかし、私は息子に対して恥ずかしい思いでいっぱいでした。ですから耳元で

「ミッタロごめんね、死んだ方がいいなんて、もう二度と言わないからね」そう言うと彼はしっかりと眼を開き、一生懸命話そうとしました。

「おカァ ハァン、シィ~ン ダァ~ ダァ~~メェ~~(お母さん死んじゃダメ)」

 なんと彼は自分がニコニコしていないと、私が死んでしまうと思っていたのです。だから必死に力を振り絞ってニコニコしてくれていたのです。一日一日、点と点でしか生命をつなげていけない危うい年月の中で、息子という人間は私の生命へ、大きなプレゼントをくれていたことを初めて知ったのはこの時でした。息子の身体がこんなふうになったのは、理由はどうあれ母親である私の責任で、彼自身のせいではありません。それなのに私は生活に疲れ果てたからといって、自分の不幸をあたかも道太郎のせいにし、心中すら考えたりしていた罪深い情けない母です。それなのに彼は私をかそうとしてくれている!! これに勝る教えを私は今まで知りませんでした。いわば彼によって私はかされていたと気づいたのです。