1 ダイヤモンドは、ああ甘露(2/3)
なあんて、次々と考えながら、ちっちゃな頃、よくやったように、苔の花先の水滴に顔を近づけ、そおっと息を吹きかけてみました。水滴は少し楕円になったものの、「おっとっとっと」という感じで持ちこたえ、息を止めてしまうと、また、まんまるく戻って、小さくプルプルッと震えている。
それが愛しくって、時の経つのも忘れ、何回も何回も繰り返していたら、人の影で輝きが遮られました。ハッとして振り向くと、一人の男性がびっくりした顔をして立っていました。その人の眼差しになんとなく言い訳しなくちゃ、みたいな思いになって、
「あのね、苔と遊んでいたのよ、私ってコケテッシュな人でしょ?」
彼は一瞬ポカンとしたお顔になって、
「はあ?……いや……あ……どうも」
と、しどろもどろでした。そして、トットコ忙しく走って行ってしまいました。
そりゃあ無理ないわよね。ニヤニヤしながら苔に顔を寄せていた私の姿は、彼からすれば石垣に頬寄せてうっとりしているようにみえたでしょうし。そしてときどきそこをなめたりしているようにも受け取れたかもしれないんですもの。