5 自殺志願とニートはガス欠車!?

 

 5月に入ったある日、母親に伴われて19歳の男の子が私を訪ねてきました。その子の目はうつろ、身体がユーラ、ユーラしてこの世の人ではないように見えました。青年の母親から聞けば、彼は東大・京大を受験して失敗し、2年目も運が無かったようです。それ以来、死にたいと言って食事もとらず、夜は眠らず、目を離すと自殺をはかる状態だと言いました。病院へ行ってもなかなか根治こんちすることができず、でも病気ではないということだったようです。

 毎年、春の時期にはこれと似た相談で何人もの人が私の所へ訪ねてきますが、このような子供たちは希望通り合格しても、いつか同じような状態を引き起こすことが多いのです。人間関係に疲れたときや、何かの事情で学校を欠席した後、怪我の後などに現れやすいのです。周囲の人々は5月病とか、うつ病などと言って、どうしてこんなことになったのかと家族は驚きます。それほどひどくなくても無気力で、ゴロゴロしてばかりの子供も増えてきてニートという社会語まで出てきています。

 どうしてなの? よく考えてみましょうよ。

 人間は生まれたときから誰もが平等に死に向かって進行しているはずなのに、それでも生き続けられるのは、脳の中にある“向上・前進”の力を、生命いのちのパイロットとも言うべき水先案内役がリードしているからです。生命の本能のようなものです。登山をしない人は、なぜ大変な思いをして生命をかけてまで山に登るかが理解できませんが、「そこに山があるから……」というのも、生命いのちのパイロットのサインの現れかもしれません。そのサインをホルモンが受け取るのです。

 命を守るこの生命いのちのパイロットのサインを無視した行動をとってしまう理由は、本能情報を正しく伝えられず、パイロットの伝達情報が上手に伝わらずに起こるためです。前にも書きましたが、私はこんな状態こそを“脳足りん状態”と言っています。

 希望通りの大学に合格しても、いつか同じような状態を引き起こすときがあるというのも“脳足りん症状”が現れて脳足りんなことを証明するからです。

 そんなとき親は自分を責めます。「育て方を間違えたかしら?」「甘やかし過ぎたのではないかしら?」「厳し過ぎたかしら?」と。

 けれどそんなことより、子供が出す“脳足りんサイン”を正しくキャッチし、適切な対処をして欲しいのです。暴力をふるう子、いじめっ子もこのケースと同じです。暴力やいじめの行きつく先が殺人だったりしたら、取り返しのつかないことになってしまいます。