3 火事場の馬鹿力の誤作動 どうしちゃったの?(3/5)

 

私はさらに質問しました。

「うーん、それだけじゃ関係あるとは言い切れないけど……そのとき風邪気味だったとか、強い薬飲んだとか、タバコを異常に吸ったとか、何か気がつくことない?」

「あーっと、今言われたこと全部当たりです。僕、タバコは吸いませんが、周りの連中はみんな吸うので、部屋の中はかすんで見えないくらいでした」

「それじゃあ脳の中のホルモン調整がメタメタになっても無理ないわ。脳では血中酸素の20%が消費されているんだけれど、一時的に脳が酸欠状態を起こした可能性も考えられるし、その上、極度の身体疲労が重なって、あなたの脳は生命危機をキャッチしたんじゃないかしら。そのためホルモンの調和が崩れて誤作動を引き起こした結果が心臓発作のもとと思われるわ」

 さらに私は続けて言います。

「つまり、このまま無理をすると生命が危ないと、あなたの脳がブレーキをかけたのよ。このブレーキは電車などに付いている緊急ブレーキみたいなものなの。怖い! 危ない! と思ったとき、すかさず条件反射で分泌されるホルモンによって作動するの。このホルモンは強い“やる気ホルモン”とも言えるものだけれど、これが多量に出るとその反動で、自殺物質という働きのホルモンも分泌してしまうのよ。普段はこのホルモンは少量ずつ働いて、元気を出したり、やる気を出したり、興奮させすぎないように抑えたり、さまざまな条件に合わせて働くものなの。これはすべて、神経伝達物質によって、伝達されているわけだから、極度の疲労やストレスによって、伝達物質が正しく伝達できなくなっているときに、イヤだ! っていう感情が強く出ると、間違った生命本体を正しくするための脳ブレーキが誤作動することがあるのね。脳は一度間違った判断をすると、それ以降も怖い、危ない、疲れすぎたなどの状況で緊急ブレーキをかけなきゃ! という判断をしてしまい、伝達物質が誤った伝達をしてしまうの。そのため、繰り返し発作を起こすわけね。この症状は、心臓が悪くて起こるのではなく、脳内ホルモンのせいってわけ」

 彼の表情もだんだんと真剣になってきます。