1 火事場の馬鹿力で病院に駆け込む

 

 

「あっ、大変だ! 道太郎が息をしていない!」

 脳の手術をして以来、道太郎は何度もそんなときがありました。脳内栄養素をたっぷりるようになり、今では慌てふためくこともなくなってきましたが、それでも万が一を考えて、常に携帯酸素ボンベを備えています。

 最初の頃は無理に退院させ自宅で介護をしていたので、無呼吸になった道太郎を抱えて、あわてて、あわてて、口移しで息を吹き込みながら病院まで走って行きました。手術後でやせ細っていたとはいえ、30kg近い体重がありました。そのグッタリとした身体を抱きかかえて夢中で走ったものです。病院で応急処置をしていただき、呼吸が正常に戻り、再び、道太郎を抱きかかえようとしたとき、道太郎が持ち上がらないのです。手足は思い切り力を出しきった反動でワラワラ震えていました。まさに、火事場の馬鹿力で病院に駆け込んだのでした。

 でもね、この体験から火事場の馬鹿力をつかさどる脳の勉強のきっかけができました。この火事場の馬鹿力をつかさどる力が誤作動して病気を作る場合もあると知りました。まったく人間の脳ホルモンって複雑ですよね。このことへの気づきから脳の勉強はぐっと進みました。