6 シャボン玉を一服(1/2)

 

 ある女性はシャボン玉がその一服になりました。42歳で女社長だったN江さん。ある日突然、脳梗塞のうこうそくで倒れ4か月の入院生活後、言葉と手足に障害が残ってしまいました。

 当時N江さんには10年以上も共に暮らしていた男性がいました。生活の面倒をずーっとみて信頼していた人でしたが、不自由になったN江さんを残して出ていってしまいました。N江さんはすっかり自暴自棄じぼうじきになり、リハビリもせず、お酒ばかり飲んで暮らすようになったようです。その様子を見かねた友人が、彼女を私のところに案内してきました。N江さんはすさんだ様子で肌も荒れ、言葉はほとんど失った状態で、やけっぱちな雰囲気でした。

 N江さんは口も思うままに動かせない様子なので、私は口のトレーニング方法として、毎日シャボン玉を時間のある限り吹くように指示し、脳の栄養をることを教えました。

 2か月ほどたった頃、見違えるほど元気になったN江さんが訪ねてきました。

 彼女の話を聞くと、2か月前の教えが馬鹿馬鹿しく、そんなことでこの重い症状が治るわけがないと思ったものの、ほかに手立てがないのでひたすらシャボン玉を吹いたそうです。

「センセイ、コップ一杯のシャボン液、シャボン玉にして飛ばすとどのくらい時間がかかると思いますか?」

 信じられないくらいしっかりした口調でN江さんは問いかけてきました。話をしようとするたびによだれが出てしまったみじめな姿が、うそのような別人のN江さんがそこにいました。