8 がんばるニューロン(2/2)

 

 生命のある一細胞が情報伝達機能を持ったところから進化して、神経節を形成します。その一つが発達して全細胞の司令塔である脳を作ったとされています。情報は最初から電子信号により、ニューロンという神経細胞が、シナプスとよばれる連結器役の神経細胞を介して、情報伝達物質を伝えていきます。この情報伝達物質を伝える動きが繰り返し行われることで、末梢神経まで伝達が行き渡るという仕組みです。また、最初に電気信号により送り出されるニューロンは、情報伝達の最初から最後まで栄養補給をしません。この栄養補給なしのニューロンが、弱い電気信号で道太郎の脳の中を虫食いになった部分を回避しながら一生懸命に情報を伝達しようと努力していたのでしょう。それは人知を超えるほどの働きで、とにかく彼の脳は脳神経外科的判定以上の力を出していると思えました。

 道太郎の脳のデータを見た専門医は、誰もが彼の懸命な脳の働きを信じてはくれませんでしたが、人が信じようと信じまいと何かの力を帯びているかのように、彼の脳は実にがんばっていたのです。確かに何かの力が宿っていたはずです。私はその力を解明したくてたまりませんでした。そして、もっともっとその力を強くできれば、道太郎を回復させられるかもしれないと考えていました。

世間的には知能が低い(IQの低い)人のことをノータリンと悪口っぽく言います。そういうことで言えば道太郎の虫食い脳は明らかにIQは創り出せなくなっていましたが、ノータリンどころか彼のEQ(心の知力)は私たちよりはるかに高いのだろうと思えました。虫食いの脳状態でEQが高いということの力が彼の場合は私と弟への愛から生じているとしか思えませんでした。