2 いじめ撲滅運動のはじめ(1/2)
道太郎が倒れて間もなく、病院からの通報を受けた学校が動き、いじめのリーダー格の子供のお父さんが私の家を訪ねてみえました。今さらどんなに謝られても元気な道太郎は戻らない! と内心気の乗らない面会でした。お父さんは私と夫の前に両手をつくと泣きながら話されました。
「私どもはローンをかかえ、上の子の進学でお金がありません。いじめに対する保障問題になると私たちは一家心中するしかなくなります」
「ちょっとお待ちください。誰が保障だの何だのと言うことを言いましたか?」(保障ができるくらいなら! 元気な道太郎を返してほしい!)
心の叫びで声が震えました。
「担任の先生と校長先生からそうお聞きし、多分、こちらのお宅からそういう話が出るだろうから、先にお見舞いを包んで……」
私は心底たとえようのない苛立ちと怒りが湧き上がっていました。すぐに言葉が出ない程でした。そしてまた同時に深い悲しみも私を支配し始めていました。私は呼吸を整えてから話しました。
「……今、道太郎は意識が無い状態です。医師たちは生き続ける見込みは殆どないと言っています。それはどんなことをしても取り返しがつかないことです。私たち家族は悲しみの中にいますが、だからなおのこと、さらにもう一家族を不幸にするつもりはありません。たとえどんなにひどいいじめであっても、11歳になったばかりの子供に一生罪人の枷を負わせることなど、私にはできません!」
夫が反対の言葉を上げるのを、この時ばかりは強くさえぎって私は言い切りました。
「あの……う……保障はいらないとおっしゃるのでしょうか?」
青い顔をして震えながら話すいじめっ子の父親に、お見舞いの封筒を返すと、
「どうか、いじめは恐ろしいことと教えてください、お願いします」
とだけ言いました。父親は心からホッとして帰って行かれました。その後ろ姿を見送りながら私の心には怒りより悲しさだけが残っていました。