1 ノータリンと呼ばれてた(3/3)
その日の午後、帰宅後彼は倒れました。1週間前ひどく叩かれ、踏みつけられた箇所が過度の心因ストレスにより破裂したのです。脳内出血でした。
頭蓋骨を電動ノコギリで切断し、18時間に及ぶ開頭(かいとう)手術でしたが、その間、私の中にはたったひとつの光景しか浮かんできませんでした。
それは ―――― 息子がうなだれ刑場にひかれていく死刑囚のように見えたことと、今なら間に合う、抱きしめて家に連れ戻したいという、むしのしらせのような予感を感じているにもかかわらず、そのまま何もせず、冷たく見送る母親 ―――― 私自身のたたずむ姿です。
ああっ苦しい! この記憶が私をずっとつかんではなさず、息子を守ってやれなかった無念さとが一緒になっていつまでも私の中に沁み込んでいます。
脳の血管が破れた道太郎の、植物状態で意識の戻らない顔、息をしていない顔を見ていたとき、あのときの会話の光景が思い出されて本当に苦しく、できることなら何でもしてやりたかった!!
「道太郎ごめんね、ごめんね。お母さんはどんなことがあってもあなたを守ってあげる。どんないじめっ子からだって守ってあげる。いじめっ子はみんな退治してあげる!」
あなたはお母さんにとって大事な大事なかけがえのない子なんだって伝えてやりたかった!! そう言ってあげればよかったのに……と。
意識がなくなるほど脳にダメージを受けていたこの子は、今までどんなに悲しい思いやつらい思いをしてきただろうと思いました。どんなときでもお母さんはあなたの味方だと言ってあげたかったと悔やみ、もう取り返しがつかない状態の道太郎に、謝っても、言い聞かせても、届かぬ状態に身悶えました。そして、その切ない気持ちは今も消えてくれません。