「どうしても!」のいきさつ

きょこちゃんのお母さんには、年のずーっと離れたお姉さんがいます。群馬の山の中のお百姓にお嫁に行って、毎日一生懸命畑仕事をして、9人家族の世話もしています。

きょこちゃんは、妹のよっちゃんと毎年夏に1ヶ月以上も、このおばちゃんの家にお世話になってきました。そのおばちゃんが腰が痛くって仕事がつらくなってきていると聞きました。

「温泉にでも行って、ゆっくり湯治でもできればいいのにねぇ」

とお母さんがおばちゃんの娘と話していました。

「群馬には、いい温泉がいっぱいあるのにねぇ」

「ねぇ、どうしてそれなら行かないの?」

大人の話に口を出してはいけないというお約束を忘れ、思わずきょこちゃんは聞いてしまいました。

「だって、ねぇ」

「旧家の嫁ともなるとね」

お母さんとおばちゃんの娘イトコは、顔を見合わせています。

「子供には、わからないことだけど・・・姉さんたち、新婚旅行だって行っていないんですもの。温泉で羽のばすなんて、夢よねぇ」

「まぁ、天から温泉券でも降ってこない限り無理ですよね」

「うーんとね、きょこちゃんはもう子供じゃないもん、だって・・・よっちゃんより3歳も大人だもん」

「大人はね、自分のこと、きょこちゃんだとか、~~だもん、なんて口をとがらせて言わないのよ、きょこちゃん」

そんなことより、いっちばん大事なのは、おばちゃんたちを新婚旅行に行かせること!! そうよ!!

小さな身体のおばちゃんが大きなカゴにお蚕さんの桑の葉をぎっしり積んで、汗をかきかき山道を帰ってきて、ヨッコラショッと下ろすが早いかお野菜洗って、お麺めを打って、大鍋で「おきりこみ」を煮ている姿が思い浮かびました。

「だんぜんよ!! きょこちゃんが天に代わって、おばちゃんを温泉に連れてく!」

「まぁ、まぁ、そんな出来そうもないこと言わないの」

「でも、いつかはそうしてあげられたらいいですね。きっと、母喜びます」

「という訳で、きょこちゃんはお店で働きたいんです!」

奥さんとお肉屋のご主人も、いつの間にか手を休めこの話を聞いてくれていました。

「うーん、でもね、さっき言ったように小学生を雇うことできないのよ」

と奥さん。

「うーんと、わりぃねぇ、きょこちゃん、かんべんしてよ」

と肉屋のご主人。

「コロッケでも食べて、元気出して帰ってね」

奥さんの後について、お店の表に回ったきょこちゃんは、1枚のビラに気がつきました。

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(続く)