大いなる神様の御心(みこころ)って、ちょっとむずかしい・・・・・・
ずっと心に溜まっていた苦しみを、話して話して、話し続けました。神父様はきょこちゃんの話の途中で何回か微笑みかかりましたが、賢明な方でしたから、ずーっと真剣に全部話し終えるのを待ちました。
「それで? ・・・・・・あなたは・・・・・・、きょこちゃんは、何をそんなに悩んでおられるのですか? よっちゃんが治ったと分かったのですから・・・・・・」
「あの・・・・・・あのね・・・・・・よっちゃんがなかなかよくならないのは、きょこちゃんが神様の約束を守っていないと神様が怒っているからじゃないか・・・・・・と・・・・・・」
神父様は息を大きくついてから、この小さな子供にどうやって大いなる神の教えを伝えようかと、また、間違った神への信仰を正すのにはどうしたらいいかを考え巡らせました。
「きょこちゃん、神様は約束、というか、こうしたらこうしてあげる、とか、あげないとか、取引のような条件はお付けになりません。いつも私たちが正しく他の人に情け深く、愛を持って生きることを助けてくれる存在です。
よっちゃんを助けるために、きょこちゃんの生命を代わりに取り上げようとはなさいませんよ。けれどもあなたが妹を助けたい、またお母さんの心を想って一生懸命にお祈りしたことをお認めになってくださっている筈です。
猫のタイガー? が自ら進んでよっちゃんのために自分の身を投げたのなら、どんな小さきものの生命でも神様は尊いとお考えになるでしょう。けれども私たち人間は、たびたび神様のことを思い違いして考えるようですよ。
神様はたとえ自らであっても、この世のあらゆる生命が絶たれることをよしとはされていません。与えた生命が与えられた期間幸せに生きることを望んでおられるのです。
ですから、よっちゃんの病気は神様が起こされた災いではありませんし、その病気を治すために、何かあがないを求めたりもなさいません。
ただ人が一心に祈ることをお認めになられるのです。時には自分の思い通りにならない時、神様がお聞き届けくださらなかったからと、信仰を捨ててしまう間違いを犯すこともあります。私だって何度もそういった過ちがありましたよ。けれども、祈りが神様に届かないことはなくて、祈りを捧げる中に、多くの過ちへの気付きや許しが見い出せるのです。
少し難しかったかな? どうですか? 神様の御心(みこころ)を少しでもわかってもらえたでしょうか?」
「は・・・・・・い・・・・・・。分からないこともあるけれど、よっちゃんのことを心配して一生懸命お祈りしたことを神様が喜んで聞いてくださったってことでしょ? お約束を守ってくださったってことでしょ? タイガーのこと、間違っていないってことでしょ?」
神父様は深くため息をつき、心の中で神様にお祈りしました。
『どうか、この子にあなたのことを正しく伝える力を私にお与えください』
「きょこちゃんが命を懸けて神様にお願いした心が本物ならば、神様は敢えてきょこちゃんの生命を取りたいとはお思いになりませんよ。よっちゃんやお母さんを今まで以上に大切にすることで、神様の御心にお仕えすることです。そして、タイガー? さんの生命は、神様がお取りになったのではないのですよ」
「わぁっ! そう! そうなんですね! すっごぉーい!! きょこちゃん、神様のこと断然気に入っちゃった。大―いすきになっちゃった!! ありがとう、神父様!!」
「でもどおしてよっちゃんは治してくださらないの?」
神父様はきょこちゃんの言葉から、きょこちゃんが何を悩んでいたのか、ようやくはっきりつかめたように思えました。
(この子は妹を助けてもらうために、神との約束で自分の生命を差し出さなくては・・・・・・と思っていたんだ。それを猫に先を越されてしまったと思い、神に嘘をついてしまったと悩んでいたに違いない。だから、妹がなかなかよくならないのは、神様が約束を守らねばならない、と言っているのだと心配していたのだ・・・)そんな風に理解できました。
そこで1番の心配事を取り除こうとしてくださいました。
「きょこちゃん、願いはすべて聞き届けられたのですよ。ですから、もう何も心配しないで、よっちゃんが治ることを信じて、神様にありがとうございます、とお祈りするだけでいいんですからね」
生真面目な神学一筋のこの神父様は、きょこちゃんを子供だからと差別せず、全霊を傾けて神の摂理を説こうとしてくださったのです。
その神父様の御心をきょこちゃんがどれだけ理解できたかは分かりませんが、よっちゃんが治ることを信じることにしたことだけは確かです。
その日以降、きょこちゃんは神様に毎日お礼のお祈りをしていました。
(続く)