ヨウちゃんとヤッチャンに会ったの
この頃は、おやつにもう2人、参加する子が増えていました。
ヨウちゃんとヤッチャンです。
ヨウちゃんのお母さんは、夜のお仕事なので、ヨウちゃんは学校から帰ると、弟のヤッチャンをおぶったり、抱いたりして遊びに来ています。
あと3ヶ月で1才になるヤッチャンは、左手にいつも布の手袋をしています。初めてヨウちゃんとヤッチャンに出会ったのは、フサ子ちゃんがお父さんと過ごしている日でした。
お菓子屋さんの前でヨウちゃんとヤッチャンは、
「なんだヨ!! その手」
「気味ワリィ!!」
―――おぶったヤッチャンの手袋を外されて、ヒーちゃん達5人の子供にからかわれていました。見ると、ヤッチャンの左手は、ちょっと普通とはちがいます。指が―――無い!!(指が生えてない!!)ヤッチャンの手は、手のひらにちょっと出っぱりがあるだけの、可愛い小っちゃな手だったのです。そばにいた近所のおばさんが、
「あら、まっ、かわいそうにねぇ。一方の手は何ともないのにね。足はどうなの?」
「あっ・・・」
とヨウちゃんが言う間もなく、ヤッチャンの靴下を脱がせていました。
「わぁーっ!!」
「あーら」
ヤッチャンの足には、かわいい指がピョコピョコ付いていました。
「あらまっ。イボみたいだけど、ちゃんとした指もあるのね」
―――とおばさん。
「ウァーッ、スゲェ!! こっちの足、8本もある!!」
「ウヒャーッ!! こっちは、7本?!」
「かわいそうにねぇ―――どうしたんだろうねぇ」とちょっとこわごわとおばさんは、靴下をヤッチャンの足に戻しました。
(もぉ!! がまんができない!!)
きょこちゃんは、みんなを押しのけるようにして、ヨウちゃんの前に出ました。
「ヒーちゃん!! 583億2500万と、1兆150万と、どっちがどっさりの数かわかる?」
「うーーーんと・・・」
「ほらっ!! ヒーちゃん、どっちがどっさりか知らないじゃない!!」
「あなたの手の指は、何本!」
「10本だ!!」
「足の指は?」
「10本だよっ!!」
「じゃ、手と足、両方足したら?」
「ふん!! 簡単だもんね、20本だ!!」
「じゃあこの赤ちゃんの指は、手と足、足したら?」
「5本・・・0・・・8・・・7・・・えーと・・・」
「おばかさんねぇ、20本じゃないの」
「そう、そう、20って、今言おうとしてたんだぞ」
「あなたも20本、この子も20本、わたしも20本、みーんなおんなじじゃない」
「えっー!!」
「20数えられたからって、その数がどう足されたのか、わかるの? ぜーんぶわかるの? どうせあなたは、583億2500万と1兆150万と、どっちがどっさりあるのかもわからないじゃないの。わかんない子が、そんなこと言っちゃいけないって、法律があるのも知らないでしょ?」
「へぇーっ!! 法律なんかあんのかよ」
「もしないんなら、今から作る!!」
気がつくと、きょこちゃんはコブシを握りしめ、足でじだんだ踏みながら、自分よりも2回り程、身体の大きなヒーちゃん達の前に詰めよっていました。おばさんは、
「あっ、こうしちゃいらんない。あたしゃ、戻んなきゃ」
―――などと言って、立ち去っていきました。
「さぁさ、そんなに顏真っ赤っかにして、怒んないの。もういいでしょ? 中に入って、フルーツ牛乳飲んできな」
いつの間にか、お菓子屋さんのおばちゃんが出てきました。
「あーっ!! いいナ!!」
「オレもっ!!」
「オレも!!」
「だめだよ!! アンタ達のはないの!! 神(かみ)さんが決めたことに文句いうやつらには、何もやんないんだから」
「へぇーっ、神(かみ)さんが決めたこと?」
「そうさっ!! きょこちゃんの言うとおり、20本の指をどこに生やすかは、神(かみ)さんが決めたんだから、誰もとやかく言っちゃなんないんだよっ!!」
「ベーゴマのクジ、やらせてよ!!」
「だめだめ!! アンタらには今日から、クジも何も売ってやんないよっ!!」
「えっ!!」
「ヒデェ~!!」
「ヒイキだーっ!!」
口々にブゥブゥ言いたてる男の子達に、
「じゃ、もうこれから、神(かみ)さんが決めたことに文句言わないかっ!!」
「うん、言わない、言わない」
「文句言う奴がいたら、教えてやるかっ?」
「うん、教える、教える」
「よぉーし、本当だな!! じゃ、今日だけおばちゃんが、みーんなにフルーツ牛乳、おごったげる!!」
(続く)