耳までさけた大きなお口
大きな農家の引き戸を開け、高い敷居をまたいだお母さんときょこちゃんは、2人とも同じようにドキドキしていました。つないだ手が冷たく汗ばんでいました。
「ごめんください!!」
お母さんが奥に向かって、声をかけました。
「ごめんくださーい!! どなたもいらっしゃらないのかしら? ごめんく・・・ださい」
その時、物かげからノソリと出てきた動物に、2人ともドキリとして動けなくなってしまいました。それは子牛ほどもあろうかと思われる、2匹のシェパード犬でした。 2匹は、別に怒るでもなく(少し小さな方は、アクビをしました)きょこちゃんのそばによって、クンクンにおいをかいでいます。
―――後でお母さんが、
『あんなに恐かったことないわ。叫び声さえ上げられなかったんですから・・・脇の下から、冷や汗が流れたわ』
―――と、お父さん達に話しました。―――
トウモロコシの種を包んでいた土のついたエプロンは、特に念入りにかいでいるようにきょこちゃんには思えました。 しばらくすると、犬達は土間にベッタリ座ってきょこちゃん達をながめ始めました。犬達が座ると、ちょうどきょこちゃんと目が合うので、きょこちゃんも犬達と同じように、よぉくお顔を見ることができるようになりました。
「まぁ、2人とも“赤ずきんちゃん”に出てくるオオカミさんみたい!! 耳までさけたような大っきなお口だこと」
赤ずきんに出てくる悪いオオカミは、『まぁ、大きなお口』と言うと、『お前を食べるためだ!!』と言って、赤ずきんを飲み込んでしまいましたが、この2人は、同じように大きなお口ではあっても、その心配はなさそうでした。なぜなら、その大口の上の眼がとっても穏やかでやさしそうだったのです。何だか、誰かに似てでもいるかのように、なつかしい気持ちがわいてくるようです。
「きっと、あなたはお母さんなのね」
きょこちゃんが、大きい方の犬に話しかけた時です。
「そいつは、オスだ!!」
戸口から、おじいさんが入ってきました。手に買い物袋を提げています。
「まあ、お留守だったんですのね。申し訳ございません。勝手に入ってしまって・・・、戸が開いたもので、てっきり、いらっしゃるかと・・・」
おじいさんは、よいっしょと買い物袋を上がりかまちに置きました。犬達は、はっはっはっはっといいながら、おじいさんにかけ寄るとシッポをパタパタ振り、おじいさんをなめたり、買い物袋のにおいをかいだり、急に元気いっぱいになったみたいです。
おじいさんは、2匹に「まてっ!!」「お座り!!」と言ってから、
「番犬を置いている時は、開けっぱなしにしても大丈夫だもんでね」
「番犬て、お留守番すること?」
「そう。悪いことする奴やドロボーがきたら、カブッと噛みついて放さない犬種なんだ」
(ホッ!! じゃあ、この人達には、きょこちゃんがドロボーじゃないって分ったんだわ)
(続く)