興味津々の片栗粉づくり

朝になるとおじさんと1番上の男の子は、お弁当を持って遠くの畑に出かけていきました。

おばさんと2人の男の子たちは納屋で片栗粉作りです。きょこちゃんは何もかも珍しいので一緒に見ることにしました。

片栗粉はジャガイモをすって作ります。よく洗ったジャガイモをおろし金でおろし、布の袋に入れてぎゅーっと搾ると白い汁が出ます。その汁をおけに溜めてしばらくすると、白い粉がおけの下に沈み、透明な上ずみ液と分かれます。その白い粉を紙の上に広げて天日で干すと、指でつまんで“キュッキュッ”と鳴る細かい粒子の片栗粉ができるのです。

片栗粉は熱湯でとくと透明なドロドロっとした食べ物になります。甘くしてお菓子にしたり、病人や赤ちゃんの食事にしたり、お料理のとろみにしたりと、とても便利に使えますが、山のようにどっさりジャガイモをすっても、少ししか作れないことを知ってきょこちゃんはびっくりしました。

しぼった後のジャガイモは牛や山羊や豚のエサにするので無駄がないんだよ、とおばさんが教えてくれました。出来立てをおわんにひとさじとお砂糖を入れて、熱湯をかけると見る間に白い粉が透き通ってきます。

みんなでフウフウしながらいただくと

「わぁっー! おいしい!! おなか痛くなった時やはしかの時におかあちゃんが食べさせてくれたのとおんなじ!!」

今までお店で買うものだと思っていた片栗粉を、こうして作れる田舎のおばさんやいとこたちってスゴイと感心しながら全部食べてしまいました。お家で作ってもらった時は、おいしくないと思って食べ渋っていたのに・・・・・・。

そうこうしている間にお昼を告げるサイレンが鳴りました。時計を持たずに農作業をしている人の多い田舎では、お昼休みをサイレンで知らせてくれるのです。

おばさんは家畜のエサにすると言っていたジャガイモの搾りかすに小麦粉を混ぜ、大きなフライパンでおやきを焼いてくれました。

「田舎のお昼ご飯だよ」と言ってお醤油とお砂糖を混ぜたタレをかけていただきます。

「わぁっー!! おいーし!! おばさん! おいしいわっ!! ありがとう!!」

有線放送からは“昼の憩い”が流れてきました。

「ここ南枚村では・・・・・・」

「あっ!! 加代子お姉ちゃんの声!! 加代子お姉ちゃん!! おばさん!! この声加代子お姉ちゃんよね?」

「そう、そう、加代子お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんは有線放送のナンバーワンアナウンサーだと評判なんだよ」

「わぁーい!!」

スピーカーから流れる加代子お姉ちゃんの声に大喜びのきょこちゃんでしたが、声を聞いていると尚更早くお姉ちゃんにお迎えに来てもらいたくてたまらなくなります。(本家のおばさんは優しいけど、遊ぶ女の子がいないんですもの)と、きょこちゃんは思いました。

ですから夕方まではとっても長~く、時間はトロトロと一向に進まないように感じられました。

昼食後おばさんたちはシイタケの原木に菌付けを始めていて、きょこちゃんにはすることが何もありませんでしたので、(お家だったらよっちゃんと遊んでいるのに)ため息をつきながら縁側で両足をぶらぶらさせているところへ加代子お姉ちゃんが到着しました。

「おばさん、農協に寄ってきたのでスイカ買ってきました」

「まぁまぁ、重いのに!!ご苦労だったねぇ。井戸につる下げて冷やしとけば明日は美味しくなってるねぇ。きょこちゃんスイカ好きだよね」

きょこちゃんはスイカのために今夜もお泊まりになってしまうのだろうかと、心配そうな目をお姉ちゃんに向けました。

「おばさん、きょこちゃんの食べるスイカは弟が農協から直に家の方に持って帰っていますから、そのスイカは本家の皆さんでどうぞ」

「おや、まあ、そうかい。ありがとさん」

―――ということで、ようやくきょこちゃんは本家からおばさん家(ち)へ向かうことができました。

念願の六車(むくるま)のおばさん家(ち)

おばさん家(ち)まで野々上からバスで20分、歩くと1時間近くかかります。電車の駅からずーっと山に向かって川沿いに進む道の六車という所です。

六車のおばさん家(ち)は300年以上も経つ古い家で、1歩足を踏み入れるときょこちゃんの好きな薪の燃えるいい香りが満ちています。1階の囲炉裏でずっと薪を燃やしているのです。なぜなら、2階がすべて養蚕室になっているので、絹織物を作ってくれる(きょこちゃんはそう信じていました)お蚕さんたちに害虫を寄せつけないために薪の煙が役立つからです。

「コンバンワッ!!」

「おお、おお、よく来たな。さぁ、あがれ、あがれ」と、おじさん。

「東京から1人で汽車で来るなんて・・・・・・えらいねぇ」と、おばさん。

「おじいちゃん、おばあちゃん、コンバンワ!!」

囲炉裏の上座に座っているおじいさんとおばあさんにきょこちゃんは丁寧にごあいさつ。キセルをくわえたおじいさんは「うむっ」とうなずいてくれました。

「おばあさん、きょこちゃんがコンバンワってご挨拶してますよ」

加代子お姉ちゃんが呼びかけましたが、おばあさんは・・・・・・

「ふん、わたしゃ何も聞こえないやい」―――――と不機嫌顏です。

「さぁ加代子、きょこちゃんとお風呂に入っておいで」

都合のいいこと以外は聞こえない振りをするおばあさんに慣れっこのみんなは平気でしたが、きょこちゃんがシュンとしたのを見ておばさんが急いで言いました。

お風呂はとっても古い木のお風呂で、薪で焚いています。お風呂場の窓を開けると村道を隔ててお寺さんの明かりが見えますし、川の水音も心地よく聞こえて別世界のようです。

お風呂からあがると、お姉ちゃんたちが小さな頃に着ていたお着物が揃えてありました。おばさんの家はおじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、加代子お姉ちゃん、正男お兄ちゃん(農協にお勤め)、大学生のお姉ちゃん、看護学生のお姉ちゃん、お坊(小学校6年生)の9人家族ですが、加代子お姉ちゃん以外のお姉ちゃん2人は高崎に暮らして学校に通っています。

このお姉ちゃんたちが小さい頃に着ていたお着物やお洋服を、きょこちゃん用に加代子お姉ちゃんが直しておいてくれたのです。

「さぁ、さっぱりしたところでお着物を着てご飯にしましょ」

「はあい!!」

囲炉裏の部屋に戻ると、帰ってきたばかりの正男お兄ちゃん、お坊(=お坊ちゃんの意味)と呼ばれている末っ子の次郎ちゃんとおじさんおばさんがテーブルを囲んで2人を待っていてくれました。

「おおおお、さっぱりしたかい?」

「あら、おじいさんたちは?」

「おじいさんとおばあさんは、いつもみんなより先に済ませて早く寝るのさ」

「ああ、次郎ちゃん大っきくなったわねぇ」

「なっなっなんだよぉ!! 自分はちびっ子のくせに!」

「これこれお坊、きょこちゃんは東京から1人で汽車に乗ってきたんだよ。えらいじゃないか」

「ちぇっ! ちぇっ! オレ様だって汽車ぐらい1人で乗れらぁ!!」

「お坊! よかったなぁ、きょこちゃんが来てくれて。家中で1番小さい赤ちゃんだったのに、急に大きく見えるぜ!」

と、正男お兄ちゃんがからかいました。

「ふんっ!」

「あっ! お坊、おばあちゃんみたいに上手にお鼻ならせたっ!! きょこちゃんにも教えてっ!!」

「きょこちゃん、そんなこと真似なくっていいのっ! お坊、ダメじゃない、変な言葉使ったり、変なことすると小っちゃなきょこちゃんがみぃんな真似しちゃうんだから!!」

「お坊が行儀良い子になるいいチャンスだな」

「ちぇっ! ちぇっ!」

アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ・・・・・・。

こうしてこの日から45日間、きょこちゃんの田舎暮らしが始まりました。

 

(続く)