おばあちゃんは?〔その1〕

「ごめんくださぁい」

2人がおばあちゃん家(ち)の玄関を開けると、ボロが転がるように出てきました。

「あっ!! ボロッ!! おばあちゃんは?」

「いらっしゃいませ」

奥から、おばさんが出てきました。
初めて会う人でしたが、眼もとやお顔の丸いところが、おばあちゃんそっくり!!

「突然におじゃまして申し訳ありません。私はこういう者です」

「わたしは、きょこちゃんです」

おじちゃんは名刺を出して渡し、きょこちゃんはピョコンとおじぎをしました。玄関の上がりかまちには、ふくらんだ柳こおりをヒモで結わいたのが置いてありました。

「おばあちゃんは? もう帰っちゃうの?」

おばさんは名刺を持ったまま、きょこちゃんとおじちゃんをかわるがわる見ながら言いました。

「きょこちゃんには、すっかりお世話になったんですってね。本当にありがとうございました。私は昨日退院してきたんです。母は・・・おばあちゃんは、ちょっと前にお別れ言うのつらいからって、田舎へ帰ったんですよ。だれも駅まで見送らなくていいって言って・・・私の身体、心配しているんです、きっと」

「だって、だって、お荷物あるじゃない。ボロだっているじゃない・・・」

「汽車で帰るのに持っていけないお荷物とボロは、後からチッキで送ることになってるんですよ」

「でも・・・でも・・・」

「このところ何日か、きょこちゃんに会っていないのが心残りだけど・・・って・・・、あっ、そうそう、ちょっとお待ちください」

おばさんは、奥からきれいな包装紙で作った紙袋(おばあちゃんは、よく広告の紙や包装紙で封筒や袋物を作っていました)を持っても戻ってきました。

「これは、おばあちゃんがきょこちゃんが来たら渡してねって、預かったんですよ」

「・・・・・・」

手渡された紙袋は、まだホンワリ温かく、中にはピンクと白のあられが入っていました。きっと、おばあちゃん、帰るまであられを揚げてきょこちゃんのことを思っていてくれたのでしょう。

 悲しげなおばあちゃんの小さな姿が、思い浮かびました。

「うっ・・・、うっ・・・うっ・・・」

「あっ・・・泣かないで・・・泣かないでよ、きょこちゃん。実は・・・」

おじちゃんは、きょこちゃんの肩に手を置いて話し始めました。

「こちらには、素晴らしいおばあちゃんがいらっしゃるということで―――ヨモギ草ダンゴや、おやきや、お手玉や、漬け物や、何でもできる、きれいな素晴らしいおばあちゃんが―――。でも、そのおばあちゃんはこちらの子じゃなくて、ご自分は年寄りで汚いから必要な人間じゃないと思われているようで・・・このきょこちゃんが私共のデパートへ見えて、何でも仕入れて売るデパートなら、こんなにすごい素敵なおばあちゃんを仕入れてくださいって頼まれたんです。きょこちゃんは欲しくてたまらなかった、このミルク飲み人形をもらったので、それと取り換えてと頼みにこられたんです。こんなに小さなお嬢ちゃんがそんなに欲しがるおばあちゃんに、是非ともお会いしたくって、失礼とは思いましたが伺ったんです」

「まぁ、そうだったんですか」

おばさんの目には、みるみる涙があふれてきました。

「きっと、大介がおばあちゃんにつらく当たったんですわ。反抗期なもので・・・」

「ちがわぃ!! 本気じゃ、なかったんだぞっ!! おばあちゃんなんか、帰っちゃえなんて、本気で言ったんじゃなかったんだぞっ!!」

いつの間にか、大ちゃんが後ろに立っていました。

「おばあちゃん、いつ出掛けたんだ?」

「そうねぇ、お2人がみえるちょっと前だから、30分位前かしら」

「きっと、きょこちゃん家(ち)へ寄ったから、すれ違ったんだよ」と、おじちゃん。

「おれ、迎えにいって連れ帰ってくる。(きょこちゃんの方に向いて)おばあちゃんはうちの子だぞっ!! 仕入れたりさせるもんかっ!!」

「まぁ、大ちゃん、落ち着いて、もう間に合わないわょ」

「そんなことないぞっ!! おばあちゃん、足がのろいから、まだ駅まで着いているもんかっ!! ちょっと待ってろよっ!!」

言うが早いか、大ちゃんはつむじ風のように飛び出していきました。もちろんランドセルは放っぽり投げてです。でも、みんなは何だか、とってもうれしいような気持ちになりました。

「さぁ、こんな所ではなんですから、どうぞお上がり下さいませんか」

(続く)