おばあちゃんを買わなくちゃ
たくさんのお買物客が、どんどん出たり入ったりする入口の脇で、男の人ときょこちゃんは女の店員さんの用意してくれたイスに座り直すと、しっかりお話を始めました。
「おばあちゃんはね、大ちゃんの子じゃないの。大ちゃんは、おばあちゃんのこといらないんですって。だから、きょこちゃんの子にもらおうと思ったんだけど『それはできません』なのよ。ヨモギ草のおだんごやおやきをとっても上手に作れるし、お手玉も作れるの。お洗濯したり、ボロや金魚さん達ともお話できるし、お漬け物したり、お店屋さんごっこしたり、お絵描きだって、とっても上手!! ねぇ、おじちゃん。おじちゃんは店長さんより、もっと偉い人なんでしょ? おばあちゃん、仕入れられるわよねぇ?」
「あっはっはっはっ」と、男の人は笑いました。
「すると、きょこちゃんは、いろんなことができるおばあちゃんをほしいから、ミルク飲み人形と交換したいんだね?」
「ううぅんと、それもそうなんだけど。大ちゃんがね、大ちゃんのお母さんが重い病気で入院してるから、おばあちゃんのこと嫌いになって、汚いからいらないって、田舎っぺだから帰れって、そう言って怒るんですもん。おばあちゃんは、大ちゃんは悪い子じゃありませんって言うけど・・・あの日からおばあちゃん、とっても悲しそうなの。年寄りは汚いから、みんなに嫌われるなんて言うんですもん。だんぜん!! 汚くないのよ、おばあちゃん。ピンクで白くってシワシワしてて、どっこらしょって腰をのばしたりして、かわいいのよ。歯だって、取り外しができるのよ。だから、おばあちゃん仕入れてくれたら、きょこちゃん、このミルク飲み人形でおばあちゃんを買いたいの。そして、もっともっとおばあちゃんになっても、汚いなんて言わないって思ったの」
「ふぅーん、そうですかぁ。そういう訳だったのか」
男の人は天井を見上げて、ひとり言のようにつぶやきました。そして、ミルク飲み人形の箱をいじっていました。
(このデパートで売っているミルク飲み人形のこと、嫌いって言ったと思って怒っちゃったのかしら? おじちゃん)
「あのね、ミルク飲み人形、小野さんの小母ちゃんの持ってきてくれた本に出てたのよ。それできょこちゃん、すっごく気に入って、おじちゃんに見せたの。おじちゃんの所へ行った時、きょこちゃんの指にトゲが刺さって、きょこちゃんが泣かないでトゲを取らしてくれたら、ミルク飲み人形、買ってきてあげるってお約束だったのよ。だからきょこちゃん、泣かないでがまんしたんだから。そしてね、ミルク飲み人形にミルク飲ませて、おしっこするのを見たかったんだけど。仕入れのお話、聞いたでしょ。だから、ミルク飲ませるのがまんしたの。1回だけ抱っこしただけで、あとは全然さわっていないのよ。箱に入れておくのかわいそうだったけど、箱から出しておいたら、きょこちゃん、遊びたくなるでしょ。だから、がまんして箱にしまっておいたの」
きょこちゃんは、このデパートで売っていたミルク飲み人形が嫌いだから持ってきたんじゃないことを、何とかわかってほしいと思いました。
「そう・・・ですか・・・」
おじちゃんは、今度はしっかりきょこちゃんの目を見てくれました。
(あっ!! おじちゃんの目の中にも、小っちゃなきょこちゃんが写っている!!)
「よぉくわかりましたよ、きょこちゃん。それじゃあ、どうしようかねぇ」
「あのね、大ちゃんのお母さん病気がもうすぐ治っちゃうんですって。そしたらおばあちゃん、田舎に帰っちゃうの。だから、だからね、おじちゃん。早く、おばあちゃんを仕入れて!! おばあちゃんを買わなくっちゃならないの」
おばあちゃんを仕入れに行こう
「きょこちゃん、仕入れられるかどうかわからないけど、そのおばあちゃんに会わせてくれるかな?」
「はい!! だんぜん!! いいわっ!!」
きょこちゃんは、夜間大学に通っている八郎おじちゃんが、「だんぜん」という言葉を使うのをすごーくカッコイイと思っていたので、このところ「だんぜん」をとてもよく使っていたのです。
おじちゃんはミルク飲み人形の入った箱を持って、きょこちゃんと手をつなぎ、おばあちゃんの家に向かいました。
途中、きょこちゃん家(ち)にちょっと立ち寄って、
「お母ちゃーん、きょこちゃん、おばあちゃん家(ち)に行ってきまーす」と声をかけました。
家の中から「はぁーい、暗くなる前に帰っていらっしゃい」と、お母さんの声。
「ねっ? 大丈夫でしょ? お母ちゃん、心配していなかったでしょ?」
おじちゃんは、「よくこんな遠くから、歩いてきたねぇ。よく道がわかったねぇ」と感心しています。きょこちゃんは、ちょっと得意な気持ちになりました。
「だって、おじちゃん(デパート)、大っきなフーセン出しているでしょ。あのフーセン見ながら行ったんだから、だんぜん簡単に着いちゃったのよ」
(続く)