ニワトリさんが越してきた

きょこちゃんはお餅まきの日から毎日、豚屋さんへ玉子と牛乳をもらいに行きました。
よっちゃんの良いおっぱいが作れると思うと、寒い日も雨の日も平っちゃらでした。ところがある日、豚屋さんへ行こうと玄関を出ると、コッコッコッコ、どこかでニワトリの声がします。

「どぉこ? どこかしら?」

「コッコッコッコッココデスヨ」

見ると、縁の下にニワトリさんがいます。

「わぁっ! ニワトリさん!! どこの子なの?」

そのニワトリは、豚屋さんの所から逃げ出したのでした。豚屋さんが何回連れ帰っても、必ずまたきょこちゃん家(ち)へ来てしまいます。とうとう豚屋のおじさんはニワトリを連れ帰るのをあきらめてしまいました。

「どうだい? きょこちゃん家(ち)で飼ってみないか。どうやら、きょこちゃん家(ち)の子になりたいらしいから。だけど、玉子を取れるかぃ?」

「うん! 大丈夫。おじちゃんとおばちゃんが玉子取るの、いつもじぃーっとみていたもの。」

「そうか、そうか。じゃあ、玉子は明日からそのニワトリのをもらえばいいね。」

「わぁーい!! ありがとう。」

そんなわけで、翌日からきょこちゃんが豚屋さんに牛乳をもらいに行く時、コーッコッコッコッコッといいながら、ニワトリもついて来てエサを食べ、また、コーッコッコッコッコッといいながら、きょこちゃん家(ち)の縁の下に戻るようになりました。そして玉子を産んでくれます。

「玉子を温める前に、ニワトリ、どかして、玉子を取らなきゃだめだよ。」そう教えてもらいました。おじさんやおばさんは、とっても簡単そうに玉子を集めていたのですが、実際にきょこちゃんが玉子を取るのは、とっても大変でした。

「ニワトリさん、ちょっとどいて下さいな。ちょっとどいて、玉子をきょこちゃんに下さいな。」

ところがニワトリは怒ったような眼できょこちゃんを睨むし、手を出すとコォーッコッコッコッといって口ばしで突っつこうとするのです。

「ねぇ、ニワトリさん。きょこちゃん家(ち)のよっちゃんのおっぱいにする玉子をどうしてももらいたいの。お願いよ。」

「コォーッコッコッコッコッ」

「もォー!! お願いって言ってるのにぃ!!」

きょこちゃんは考えました。(ニワトリさんに大好きなマリービスケットをあげたら、玉子をくれるかしら?)そして、おやつのマリービスケットをニワトリよりちょっと離れた所に置いてあげました。

「ニワトリさん、どーぞ! きょこちゃんの今日のおやつをあげるわ。」

隠れて見ていると、ニワトリはマリービスケットを突っつきに縁の下から出てきました。

「今だわっ!!」

きょこちゃんは、ピューッと飛び出して、ニワトリの座っていた所から玉子を取りました。

とっ!! とたんに、コォーッコッコッコッコッコォーッと、ニワトリさんがきょこちゃんめがけて追っかけてくるではありませんか!!

「キャーッ」きょこちゃんはすっかり恐くなって、―――それでも、よっちゃんのおっぱいになる玉子は、しっかり持ったまま―――飛ぶように走りました。

庭中、ニワトリに追っかけられて、とうとうきょこちゃんは家の中に逃げ込みました。
ニワトリも家の中まで追って入ってきてしまいました。

「いやぁーん」トットコ逃げるきょこちゃんをニワトリは、コォーッコッコッコッコッとおどかしながら、追いかけます。

「キャーッ」玉子も取り落とし、夢中で逃げていたきょこちゃんはドッキーンとしました。ニワトリさんが、よっちゃんのお布団の上に乗っているではありませんか!! 今までニワトリが恐くて逃げ回っていたことを忘れ、よっちゃんを守らなくては、という思いの他はみんな消えてしまいました。

「ダメェ~」きょこちゃんは、ニワトリに向かって行きました。

「シーッ!! シーッ!!」

するとどうでしょう。ニワトリは、さっきまで、きょこちゃんをおどかしていた同じニワトリとは思えない程あっさりとコッコッコッコッコケッコッといって、クルリと向きをかえ、きょこちゃんに追われるまま庭に出て行きました。

「あーっ、よかった。」

きょこちゃんがよっちゃんのお布団をのぞくと、よっちゃんはお人形より可愛いお顔で何事もなかったようにスヤスヤ眠っていました。

「おねえちゃん、よっちゃんを守ったからね。」

それから、よっちゃんのおっぱいになるはずの玉子…、玉子は?! 玉子は、玄関前の庭に落っことして、1つは無残にも割れていました。そして、その割れたカラをニワトリさんがついばんでいます。(八郎おじちゃんが言うとおり、ニワトリさんの玉子は赤ちゃんじゃないのね。)

『玉子はニワトリさんの赤ちゃんなの?そしたら、食べちゃかわいそうよね』って言った時、八郎おじちゃんが教えてくれたことを思い出しました。そして、きょこちゃんは、ニワトリをシッシッと追い払って割れずにいたもう1つの玉子を拾いました。(もうアナタなんか、こわくないわ。よっちゃんを守れたんですもん。)

よっちゃん、生まれてくれててよかったなァ。よっちゃんが生まれてくれたから自分は強いお姉ちゃんになれたんだと、きょこちゃんは嬉しく思うのでした。

(おわり)