サービスのプロ(5/5)

 

 

 夕食(ディナー)に階下へ下りていくと、ひと回り身体が大きくなったように感じられるハンスが輝くような笑顔で出迎えてくれました。

 「またお会いできて光栄です。あの時から私はすっかり変わりました。

それまでは正直、ツアー客は苦手だったし、形だけのサービスだったかもしれません。

 でも、あの時以来、どこかであなたがみていてくれると感じながら仕事をするようになったのです。

 おかげで一生懸命サービスをできるようになりました。2か月前にベルキャプテンに昇格できたのもみんなあなたに会ったからです。

 ありがとうございます。

 また、いたしてくださって本当に嬉しいです。」

 いつの間にかホテルの従業員の方々が周りに集まっていました。

 その中のひとり―――支配人でした―――が、

 「良いお客様(ゲスト)が良いホテルマンを育てていくのですね。心より感謝をお伝えいたします。どうぞ今日もここのホテルライフをお楽しみください。」

―――とおっしゃいました。

 私には思ってもいないことだったので、あまりの嬉しさに涙がにじんでしまいました。

 みんなと握手してからのディナーは何もかも天の味のようでした。

 サービスを受ける側も、サービスをする側も一体となって嬉しさを共有できた一瞬を実感したからです。

 

 それ以来、サービスのプロたちのサーブする側、受ける側は同じ舞台に立っているのだという意識をはっきり持てるようになりました。

 そのことを確認するのが楽しく、ホテルに行くのがより好きになりました。

 気が付くと心のサービスの修行の場となっていたし、他人への気配りと行動を学ぶ道場のようにも思えているのです。

 チャンスがあったらあなたも人のプロ修行体験ツアーをしてみたらいかがでしょう。