1 ダイヤモンドは、ああ甘露(3/3)

 さっきの人の、驚いたような、かわいそうに、と言いたげな表情を思い出しながら、昨日面談した青年の母親の気持ちが初めてわかったような気がしました。

 本人は心のままに自分の世界を作り、その中に浸っていると自分の姿は見えないものです ―――― さっきまでの苔と私のように ――――― 。でも客観的にその言動ははたからは不可思議に見えてしまう。

 そうした言動をする我が子を母親は他人の目から隠そうとしました。なぜそうした言動をするのかを考える前に、母親は息子を薬漬けにしてしまいました。

 母親は他人の目を気にするあまり精神科にも連れて行かず、とっぴな言動をする我が子に睡眠薬を与え与えして3年が経ち、もはや薬を与えないのに眠ってばかりいる23歳の息子になってしまいました。目が覚めたときには、13歳のときに戻っていたり、20歳だったり、幾通りもの年代の息子のように行動します。13歳に戻った息子が、甘えて、

「ママ、学校に行くとみんなからいじめられるから行かなくていいよね」

 と繰り返し泣きながら訴えるものの、現実ではないので何もしてあげることができません。その姿があまりにも哀れで、誰に真実を話すことも相談することもできず、ましてや入院させる踏ん切りもつかぬまま思い悩んでいました。