9 道太郎が稼いだ1万円(1/2)

  あるとき若い研修医たちを前に道太郎の脳写真を見せながら、教授先生が説明を始めました。

「この人の脳は生存が不可能な程、ダメージを持っています。劣化も進み……記憶はもとより、言語のところもほとんど作動していないし……」

「ちょっと待ってください、近頃はだいぶ記憶も戻って漢字も読めるようになってきたんです!」

 私は思わず口をはさみました。道太郎をまるで廃人のように扱おうとしていると感じたからです。医師は微笑みの中に気の毒そうな表情を浮かべて、レントゲン写真を指し示しました。

「お母さん、お気持ちはわかりますが、また、そういう風に思われたいのも理解できますが……この写真をご覧ください。言語をつかさどっているところ、それと記憶をファイルする部分、呼吸や体温をコントロールするここ……白くなっていますよね。ここは欠損している箇所で、従って脳機能はすべてないということなんですよ」

「あら、それでしたら……看護婦さん、隣の部屋にいる息子を連れてきてくださいません?」

連れて来られた道太郎は、半分ベットのような車イスに横たわりグッタリとしています。医師にも道太郎の力を認識してもらい、もっと別の治療法を見つけてほしい一心で私は必死でした。

「ミッタロークーン、お目々を明けて~」

私は必死に道太郎の耳元に口を近づけて呼びかけました。ドクターたちはますます気の毒そうにしていました。