白髪の紳士と商談をスタート (続き)
(よかったら!! ですって!!)
「これ、不二家のショートケーキでしょ?!!」
「そう、よくわかったね。不二家さんは店の隣だから女の子に1番人気のあるケーキを買いに行ってもらったんだよ。おじさんじゃわからないからね。それで、おじょうちゃん、ショートケーキ好きかな?」
「ハイ! たぶん。あの、ね、今日初めてショートケーキ食べるんだけど、きっと大好きです! それと・・・ね、アタシ、おじょうちゃんじゃなくて、きょこちゃんです!」
「そうか、そうか、よかった。じゃあ、きょこちゃん、おあがんなさい!」
「ハイッ!」
なんて、なんて、素敵なんだろう! 夢のようにきれいな苺のショートケーキ!
(こんな真夏に苺がはさんであるの!)
フンワリ焼かれた薄い黄色のスポンジは、2段に分かれていて、間には雪のように真白いなめらかな生クリーム。そして真っ赤にうれた苺! がはさんであります。上にも生クリームがたっぷりデコレーションを作り、そして! そして! その中央にはルビーのような赤い苺が誇らしげに乗っています。
家の白黒テレビでは色までわからなかったけど―――。
「すごーく、きれい!」
声に出して、つい言ってしまいました。毎週見てる『ディズニーランドアワー』という番組(野球中継が長引くと中止になっちゃうけど)のスポンサーの不二家。そして・・・コマーシャルに出てくる、あのあこがれのショートケーキが目の前にあるの!!
笑顔できょこちゃんを見ていた紳士にニッコリ笑いかけると、
「いただきまーす」
パクッと食べようとフォークをショートケーキにさしました。
とたんに、
「あっ! いけない!」
食べるのを止めました。
「どうかした?」
「あのぉ、このケーキいただいて帰ってもいいの?」
「えっ? どおして? 嫌いなの?」
「うぅん、そうじゃないの。そうじゃないんだけど・・・」
「なに? 言ってごらん」
あまり紳士が熱心に聞いてくれるので、きょこちゃんは話し出しました。
小学校のお給食に出るパンを、よっちゃんとみぃちゃんに毎回持って帰ることや、それを2人がいつも楽しみにしていて、下校の放送が家で聞こえるので、ずーっときょこちゃんが帰るまで玄関の段々に座って待っていること。毎週3人でみる不二家のコマーシャルのショートケーキを、いつかお姉ちゃんが、きっと、きっと、きっと、きっとね、食べさせてあげると約束してたことなどなど―――。
「それじゃあ、きょこちゃんは、よっちゃんとみぃちゃんのお姉さんなんだね」
「ハイッ! そうなの。2人もいるから、すっごく手が掛かるけど、妹ってかわいいのよ。だから、ショートケーキ、おみやげにしたいの」
「じつはね、ショートケーキなら、まだどっさりあるんだよ。帰りには箱に入ったのを持ってってもらおうね。だから、妹さんのを心配しなくていいから、この2つはおあがりなさい」
「わあーっ! うれしい! ホント?!! ホントに、ホントに、ホントなの?」
「うん、うん」
夢みたい。ひと口ほおばると、甘酸っぱい苺と、甘~いトロッとした生クリームが口中に広がります。もったいないなぁ・・・・・・1人でいっぺんに食べちゃうの。夢中で食べているのをニコニコながめていた紳士は、
「ちょっと失礼。ゆっくりおあがんなさい」―――と席を立ちました。
(続く)