波乱含みで出発!
「さぁ! よっちゃん、お姉ちゃんにちゃんとついてきてね。あん、どしたの?」
汽車に乗ろうとしているのに、よっちゃんは立ち止まっています。
「あたしの赤ちゃんがいないの・・・・・・」
「だってさっきまで持っていたでしょ?」
「うん、でもいないの」
「しょうがないわね、さっきの所まで戻ってみましょ。落としたかもしれないかしら・・・」
「よっちゃん、赤ちゃん落としたりしないもん」
「じゃぁ、どこにあるのかしら」
きょこちゃんは重いボストンバッグを持ち直すと、再び改札口まで戻りました。
「あっ、いた!」
お人形は改札口の鉄のチェーンに引っかかっていました。
「やっぱり、落っことしたんじゃないの」
「ちがぁうもん、ブランコしてあげたんだもん」
「ふぅ・・・・・・そうなの、ブランコしてあげたのね。でも忘れちゃダメでしょ」
「うん」
「じゃあ行こう!!」
5番線に停まっている汽車は今にも走り出しそうに見えましたが、どうやら間に合ったみたいです。
よいしょっとボストンバッグを上げてからよっちゃんの手を引っぱって汽車に乗ろうとしましたが、よっちゃんの足では汽車のステップに届きません。
「ちょっと待ってね」
きょこちゃんは急いで空いているお席を探して、リュックと水筒をボストンバッグを下ろしました。そうしておいてよっちゃんを再びつれに行きました。抱っこしてあげようと思ったのです。けれどもよっちゃんの姿がありません。
「あっ!! どうしよう!! よっちゃあーん!!」
その時よっちゃんはお弁当屋さんの後ろについて行きかけていましたが、きょこちゃんの声に気付いて駆け戻ってきました。
「お姉ちゃん、あれ買って、あれほしい!!」とお弁当屋さんの方を指します。
一銭もお金を持っていませんでしたから、きょこちゃんは困ったなと思いました。丁度その時ベルが鳴りました。
『ジリリリリリリリリ』
『5番線から上越方面行きが発車します。ご乗車の方はお急ぎください』
『ジリリリリリリリリ』
「さぁ、よっちゃん、お姉ちゃんが抱っこしてあげるから早く乗りましょ!」
「やん! よっちゃん、あれ買いたい!!」
「あとでね、よっちゃん、早く乗らないとお荷物だけ田舎に行っちゃうのよ。早く、さあ、早くったら!!」
「あとで買ってくれる?」
「う・・・・・・、うん・・・・・・。あとでね」
よっちゃんを早く乗せなくては、と焦ったきょこちゃんはあいまいな返事をしてしまいましたが、どうにか2人とも汽車に乗り込むことができたのでホッとして席に着きました。
(続く)