ヨモギ草でお買い物
その日から、お天気の良い日は毎日、おばあちゃんのところへ遊びに行きました。
ボロは、きょこちゃんの期待通り、みにくいアヒルの子のように真っ白な白鳥 きれいな真っ白な猫にはなりませんでしたが、それでも白と黒と茶と、ミカン色のかわいいフワフワの毛が生えてきて、飛び跳ねるマリのようにコロコロしてきました(いつの間にかボロという名前になっていましたが・・・)。
ママ―と言わないかわりに、うれしそうにゴロゴロ、おのどを鳴らすようになりました。今では、おばあちゃんとは大親友!! きょこちゃんがヨモギ草を摘むと、それをお金のかわりに、おばあちゃんはお店屋さんになって、干したおもちを油で揚げたおかきやヨモギ団子と代えてくれました。
「くださいな」
「はい、いらっしゃいませ、かわいいお母さん、今日は何をあげましょうか」
「これで何が買えますか?」
ヨモギ草を差し出すきょこちゃん。
「今日は、ヨモギのおやきですよ」とおばあちゃん。
「わぁ!! きょこちゃん、ホントのお母さんみたい!」
とっても、とっても、幸せな日が続きました。
おばあちゃんなんかいらない!!
ある日、おばあちゃんが小豆を干していました。その上をボロが転げ回ってバラバラにダメにしないよう、きょこちゃんは見張っていました。おばあちゃんは、お漬け物をヨイショと言いながら漬けています。それが終わったら、干した小豆を入れてお手玉を作りましょうねって言われたので、きょこちゃんは真剣にボロを見張っていたのです。
ガッシャーン!!
「きゃっ!!」
「フギャッ!!」
「あーん、びっくりしたぁ!!」
音のした方を見ると、お庭の大きな金魚のハチにランドセルが飛びのっています。それで、金魚のハチの上をおおっていたガラスの板が割れたのです。そばに、ムスッとした男の子が逃げ出しそうに立っていました。
「あっ!! 大ちゃん!! ランドセルを放ったりして!! あらまぁ、ケガはなかったかい?」
急いで手をふきふき、おばあちゃんが漬け物桶の前から来ました。
「今日は、早かったねぇ。お給食は? お腹空いていないかい?」
「おばあちゃん、はやく!! はやく!! かばん取って、金魚さん、びっくりして死んじゃうから!」
「大ちゃん、かばん取って、割れたガラスをのけないと・・・」
「かまうもんか!! 金魚なんて死んだって平気だいっ!!」
「まぁっ!! ひどい!! ダメよ」
「うるさいぞ!! チビッコ!! うちの金魚なんだぞ!! 死んだって何だってかまうもんかっ!! うちの勝手だろっ!!」
男の子からチビッコって言われて、きょこちゃんはグキッとなってしまいました。
「これっ!! 大ちゃん!! 何てこと言うの。早く遊びに行きたくって、ただいまも言わないでカバン放っぽるから、こんなことになったでしょ。きょこちゃんに八つ当たりしないのよ。さぁさ、カバン片して一緒におやつを食べてから遊びに行ったらいいじゃない?」
「うるさいやっ!! 田舎っぺのクソババァ!! お母さんみたく、いろんなことを言うなよっ!! お母さんじゃないくせに!! お母さんだって間違われちゃうじゃないか!! 早く、田舎に帰っちゃえよっ!!」
「おバカさん!! こんなにいいおばあちゃんに、どうしてそんなにひどいこと言うの、おばあちゃんがここの家の子じゃないからって、シンデレラのママ母みたいないじわる言うなんて、わるい子ねぇ!!」
きょこちゃんはチビッコって言われたショックよりも、おばあちゃんにひどいことを言われたことで、息もたえだえになる程腹が立ってしまい、大声で叫んでいました。
こぉんなに腹が立ったのは生まれて初めてです。いいえ、腹が立っただけじゃなくて、何だかとっても悲しくなってしまいました。
「うっ、うっ、うわぁーん!」
「あらら・・・ら、きょこちゃん、泣かないで・・・大ちゃん!!」
「知るかっ!! そんなブスのチビッコ!! おばあちゃんも大っきらいだ!!おばあちゃんなんかいらない!! 帰れよっ!!」
怒鳴るように言いすてて、どこかへ走っていってしまいました。
「ごめんね、きょこちゃん、ごめんね」
「うっ、うっ、うっ、どおしておばあちゃんがあやまるの。おばあちゃん、ちょっとも悪くないのに。うっ、うっ」
「びっくりしたでしょ? でも、大ちゃん、ホントはいい子なのよ。小っさいころは、きょこちゃんと同んなじように、おばあちゃんと仲良く遊んだのよ。だけどね、今はお母さんが入院して手術したりしたから、とっても心配なのよ。お母さんの代わりに、おばあちゃんが食事の支度したりするんだけど、おばあちゃんじゃお母さんのような料理ができないでしょう。だから、さびしいのよ。それにね、この間、父母会があって、お友達に『お前のお母さん、年とってるな』とか『田舎っぺだな』って、からかわれてしまったの。それで、あんな風に時々怒鳴ったりしちゃうんだと思うのよ。ごめんなさいねぇ、きょこちゃんにも怒鳴ったりしてね。でもね、もうすぐお母さんも退院できそうだから、おばあちゃんも田舎に帰れるから、大ちゃんもきっと元のように、いい子に戻るはずだから、許してあげてね」
「えーっ!! おばあちゃん、帰っちゃうのぉ?!! いやぁ~よ、ダメダメ、そんなのぜーったいダメェ!!」
「帰ったら田舎で1人だから、きっとおばあちゃん、さびしいわね。きょこちゃんにも会えないし・・・でもボロを連れてくから大丈夫。いつかきょこちゃんも遊びに来てね」
「ダメッ! ダメッ! おばあちゃん、ここの家の子じゃないんなら、きょこちゃんの子になって!! きょこちゃんにもらいたい!!」
「ありがとうねぇ、きょこちゃん。でも、それはできないのよ。それに、じきにきょこちゃんでも、おばあちゃんいらなくなるわよ。きたない年寄りなんてね・・・」
「そんなことないもん!! きょこちゃんならおばあちゃん、ずーっといるもん。おばあちゃん、きたない年寄りなんかじゃないもん。きょこちゃんにもらわれて!! ねぇ!! おばあちゃん」
おばあちゃんは、黙ってカバンと割れたガラスを片づけました。
「あーよかった。災難だったねぇ、金魚さんたち、無事でよかったね。ごめんなさいねぇ」
おばあちゃんは金魚さんにも謝ってから、キレイに洗い張りをした着物の古きれでお手玉の袋を縫い始めました(どうして、こんなに素敵な何でもできるおばあちゃんを大ちゃんは、いらないなんて言えるのだろう)。
下を向いて指をせっせと動かして、針を生きているようにあやつるおばあちゃんは、ちょっと悲しそうに見えました。ピンクのホッペが今は白っぽくなって、目も少しうるんでいるようでした。いつもより、とっても小さく縮こんだように感じられます。
その時おばあちゃんは、きょこちゃんには言いませんでしたが、おばあちゃんが作った、おだんごやおやきや食事を大ちゃんは、きたない!! と言って、食べないことを思い出していたのです。
(続く)