第十八話『きょこちゃん、銀座へ行く』③

「こんな大人に愛った(あった)から」第十八話
きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。
白髪の紳士と商談をスタート
(何分位たったのかしら?)
ちょっと待っていて、と言ったわりには、時間がだいぶん経ったように思えました。
(きっと、あんまり大きな宝石だもんで、お店のお金が足らないのかしら?)
「お待たせしてごめんなさいね。どうぞ、こちらにお入りください。」
明るい店内から通されたお部屋は薄暗く感じて、目が慣れるまで少しの間何もはっきり見えませんでした。
「どうぞ、こちらにいらっしゃい。」
部屋の奥の方から、落ち着いた男の人の呼びかけがありました。
「コンニチワ!」
(ドキッ、ドクッ、ドキッ、ドクッ、アタシの心臓の音、周りに聞こえないといいけど)
気がつくと、案内して下さった年配の女店員さんは、一礼をしてドアを閉めて出て行ってしまって、きょこちゃんは、黒い服を着た白髪の立派な紳士の前に、ひとりで立っているのでした。
「どうぞ、お座り下さい。」
「ハイッ!」
元気よくソファに座ると、フッカリしたクッションに、身体がスッポリ埋まって、足が宙に浮いてしまいました。
きょこちゃんはお顔が真っ赤になるのを感じながら、それでも威厳を保とうとして、必死に足を床に着けました。
「江東区から歩いて来たんだって?」
「ハイッ!」
「1人で来たの?」
「ハイッ!」
「この石を抱えて、1人で歩いてきたの?」
「ハイッ!」
この時、初めて、紳士ときょこちゃんの間にある黒いテーブルの上に、きょこちゃんのお宝―――石が置いてあるのがわかりました。
新聞の切りぬきも、一緒に置いてありました。(いよいよだわ、ドキドキ・・・)
「何時にお家を出てきたの?」
「えっ、ハイっ、7時ごろだったです。」ですは、言葉を丁寧にしたくって付け足しました。
「もうお昼を過ぎてるねぇ、おなか空いていないの?」
(おなかが空いてないかですって? アタシにおなかがあったなんて忘れてたもん。だって、もうすぐ、もうすぐすっごい大金持ちになっちゃうってこと知ってるのに、おなか空いたりなんてしないもん。)
「ハイッ、大丈夫です。」
「でも、これなら食べられるでしょ?」
知らない間に、さっきの若い方の店員さんが、お盆に氷の入った麦茶とショートケーキがのったお皿を2つずつ持って、後に控えていました。紳士の合図できょこちゃんの目の前のテーブルに、麦茶とショートケーキののったお皿が置かれました。
「さあ、どうぞ。」
「はいっ!」
(大事な商談【こういうの商談って言うんだって、本で読んで知ってる】前ですからノドなんて渇いてなくたって、紳士の気を損ねたくないもの、何でもいただきます。)
「ゴクッ」(あっ、この麦茶、お砂糖入ってる!!)
ひと口飲んで、そう感じたとたん、きょこちゃんのノドの下の方から、急に渇きが押し寄せてきて、ゴクッゴクゴク、一気に麦茶を飲み干してしまいました。
「よかったらこっちのもおあがりなさい。私はさっきお昼をすませたばかりだから。それと、よかったら、ショートケーキを両方とも食べてね。」
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