第十八話『きょこちゃん、銀座へ行く』②

「こんな大人に愛った(あった)から」第十八話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

ふぅ~っ! 着いた、着いた

 どっしりとした構えの入り口は、新聞なんかで見るより、ずーっと大っきくて、ガラスがピカピカ輝いています。

ノドもとにこみ上がってきたかたまりを、ゴクリと飲み込むと、思い切って、厚いガラスと金色の金属でできているドアを開けて中に入りました。

「いらっしゃいませ。」 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ。」 「いらっしゃいませ。」

店内の何か所からか、同時に声がかかりました。

 ライトがコウコウとついて、太陽の真下にいるほどの明るさで、生まれて初めてきょこちゃんの舌は、マヒしたかのようにすぐにはほぐれませんでした。一瞬、驚いた表情をみせた女性の店員さんが、

「何かご用ですか?」ニッコリ微笑みながらそばに立っています。

「あのね、とっても、とっても、とっても大事なご用で来たの。」

「あらっ、お母様のおつかいですか?」

 もう1人、やさしそうな女性の店員さんが―――最初に声をかけた店員さんより、ずっと年配の―――ニッコリしています。

「あの、あのね。きょこちゃんはね、きょこちゃんのご用で来たの。」

「そう、じゃあ、何のご用か言って下さいます?」と若い方の店員さん。

「きょこちゃん? というお名前ですか? もしかして、ご家族とはぐれてしまったの?」

「うぅん、うぅん、そうじゃないの。」

 お水からピョコンと飛び出ちゃった金魚って、こんな感じかしら? ノドもとには、さっきよりずっと大っきなかたまりが、つっかかってしまって苦しくなっていました。

「あのね、アタシのガーネット、買ってもらいたいの。これね、ガーネットって宝石なのよ。」

「ええっ!!?」

急に店中がシーンと静まり返ってしまいました。

「えっ?」

「アタシのガーネット買いたいかなって思って、持ってきたの。」

「えっ?」

「あのね、アタシのガーネット・・・(よかった。いつものような声に戻れた)買ってもらおうと思って持ってきたの。」

「あらっ、ごめんなさいねぇ。ここのお店では、石は買わないのよ。」

「だって、新聞に出てたんですもの。新聞に出てたの、このお店でしょ? 外国の大きな宝石を借りて、飾ってるって。それでもし、きょこちゃんの宝石を買えばもう外国から借りて飾らなくてもよくなるじゃない。そう思って、ガーネット持ってきたの。」

しっかりにぎってきた新聞の切りぬきを広げて見せました。

「どこからいらしたの?」と、それまで話のなりゆきを見ていた年配の方の店員さんが聞きました。

「東京都江東区猿江町から。」

「あらっ、まっ、随分と遠くから来てくれたのねぇ。」

「うぅん、そんなに遠くなかったもん。同んなじ東京都ですもの、平っちゃらだったわ。どんどん歩けたもん。」

「えっ、この暑い中、歩いてきたの? 1人で?」

「うん、でもね、このガーネット切ってもらって、中からすっごい宝石が出てくるから、帰りはハイヤーで帰れるもの。」

きょこちゃんは後生大事に持ってきたお宝を手近のショーケースの上に置きました。

包んでいたタオルやらふろしきを解くと、5ミリほどのキラキラ光るガラス質の破片の点々と付いた、直径12~13cmの石のカタマリが現れました。

「まあ、こんなに大っきな石を、よくねぇ、随分と重かったでしょう?」

「うん。でも、よっちゃんやお母ちゃんの喜ぶお顔考えると、全然へこたれなかったのよ!」

ちょっとむずかしい言葉を使えた快感を感じながら、いつも通りのニコニコ顔に戻って言いました。

「ね、早く切ってみて。切って、中の宝石を見てちょうだい。」

「・・・・・・」――――――若い店員さん。

「きょこちゃん? だったわね? ちょっと、ここで待っていて下さる? この石を貸してね。」

「はいっ!」

(年配の女店員さんはやっぱりベテランだから、これがどんなにすごい宝石か、ひと目でわかったんだわ。あなたはまだ、新米さんなんで何にもわからないのね)

「ふうーっ」

と知らずに、ため息をついたきょこちゃんは、若い方の女店員さんにニコッと笑いかけると、年配の女店員さんがきょこちゃんの石を持って入って行った、奥の方を一心に見つめていました。

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