第十八話『きょこちゃん、銀座へ行く』①

「こんな大人に愛った(あった)から」第十八話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

いざ、いっちょうらを着て

 きょこちゃんがそのお店のことを知ったのは、2ヶ月前の新聞記事からでした。

 「外国の王族の、とても高価な宝石を飾ってあるというのなら、きっと、私のこれも欲しがるにちがいないわ。そしたら、私は王族のように貸してあげるだけじゃなく、売ってあげよう。そしたら、よっちゃんにレースのブラウスを買ってあげられるし、お母ちゃんも暑い日に汗をふきながら、ラーメンを作って売り歩かなくてもよくなるわ。なにより、お金がなくて大変だって、月末に集金のおじちゃんたちに謝らなくてもよくなるじゃない!」

 新聞記事を見てからの長い2ヶ月、ずーっと、待って、待って、今日から夏休み。

 従兄弟と取り換えっこで手に入れた(大事にしてた虹のカケラと取り換えた)『たのしい小学四年生』の付録の方位じしゃくをにぎりしめ―――きょこちゃんの住む下町の大通りから、1直線に西を目指せば銀座につけると聞いてたから―――いっちょうらの洋服を着たことをとがめられないように、こっそり家を出ました。(どの位歩いたら、そのお店のある銀座につけるのかしら?)

 朝が早いので、商店街はまだ静まり返っていて、いつもと全然違う感じの大通りを、ちょっぴり心細くなりながら歩き出しました。

 (大丈夫よ! きょこちゃん位、勇敢で元気のいい子は見たことないって、検診のお医者さんに褒められたもの。どんなに遠くても、へっちゃらだわ)歩き出すと、すぐに汗がふき出してきました。

(でも、いっちょうらを着てなくちゃならなかったんだもん。一流の品物の売買をする一流の仲買人たちはフロックコートを着ているから、きょこちゃんだってスーツを着てなくちゃならなかったんだから・・・)脇の下を汗が流れるのを感じながら、そう考えていました。今日、着てきたいっちょうらは、よっちゃんの七五三の時に着物が買えないので、お母ちゃんが縫ってあげたウールのスーツなんです。すごく大きめに――― もとはお母ちゃんのスーツだったので ――― 縫ったので、ちょっときついけどなんとか4年生のきょこちゃんにも着れる、家中で唯一のスーツだったのです。

(美智子さまだって、きっと暑くたって、我慢してスーツを着ていらっしゃるにちがいないわ。皇室にお嫁に行けば、いつでもニコニコして国民に手を振らなくちゃならないんですもの)

そう思うと、だんぜん勇気が出てきました。きょこちゃんは、ニコニコ周囲を見回しました。国民は誰も出ていなかったけど、大っきな猫がノソノソやせこけた子猫を3匹連れて、ちょうど目の前を横切って行くところでした。

「ごきげんよう!」国民に手を振る皇族を思い浮かべながら、きょこちゃんは上品に手を振りながら歩き続けました。

暑さの中を日本橋から銀座へ

 どれだけ歩いたでしょう。すっかり陽は高くなって歩道はジリジリ焼けつくようです。

でも、通りはだんだんにぎやかになって、すれ違う国民も多くなり、きょこちゃんは、いちいちニコニコと、手を振ることができなくなっていました。

「あ、日本橋。でも、ここからは、どっちぎしへ行ったら、銀座に出るのかしら?」

日本橋の交差点には、交通整理のおじさんが、四方の車をまるで交響楽団の指揮者のように全身を使って、身振り、手振りでさばいています。

「どっちへ行けば銀座かしら?」

きょこちゃんは、トコトコおじさんに近づいていきました。

「おじちゃん、コンニチワ。銀座はどちら?」

汗びっしょりのおじさんは、一瞬アクションを止めて、ちょっとびっくりしたようなお顔で、きょこちゃんを見てから、

「あっち!」

と左手を指しました。

ブッブー プァッパー プップー! 途端に車のクラクションが一斉に鳴りました。

「ふぁっと、しまった! 失礼しました!」おじさんはマイクで慌てて言いました。

「あん、ごめんなさい。」きょこちゃんは、ちょっと首をすくめると、さっきまでノドが渇いてヒリヒリしてたのもすっかり忘れて、

「きっと、もうすぐだわ」

汗ばんだ手で、家を出る時からしっかり持っていた今回の冒険の主役のお宝を、更にしっかりとにぎり直すと、トットッと交差点を渡り左に進路をとりました。

日本橋からは街路樹があって、さっきよりは楽に歩くことができました。ただ、ショッピング街に入ってからは、すれ違う人たちがきょこちゃんをびっくりしたような目で見ています。日傘をさしたお母さんに連れられた男の子と女の子が、

「ねぇ、ねぇ、ママ、あの子見て、ヘンコリンなあの子!」

きょこちゃんは、もう一度、お宝をギュッとにぎりしめ、(何て言われたって平っちゃらだもん。あとちょっとしたら、きょこちゃん、あの子達より大金持ちになっちゃうんだから)

そう独り言を言ってみても、ちょっとどこかがチリチリ、眼の奥もチクチクします。ありったけのおリボンを4つも髪に結んでいるのが、熱気と汗ですっかりショゲてダランとうるさくなって、気持ちまでがショゲかかった時、とうとうそのお店の前にたどり着きました。

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