第十六話『きょこちゃん、お葬式に行く』④

「こんな大人に愛った(あった)から」第十六話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

文吾郎おじさんのつぶやき

 文吾郎おじさんの番になると、おじさんは深々と遺影に向かって頭を下げました。合掌された手がブルブル震え、悲しそうに「兄さん・・・・・・」とつぶやき嗚咽をこらえているのがやっとのようでした。小さな声にも関わらず、きょこちゃんには

『兄さん・・・・・・なんで・・・・・・逝っちゃったんだ・・・・・・寂しいよ・・・・・・。』と聞こえた気がしました。

 こうしてお焼香の人たちを見ていると、本当に悲しんでいるのか、形だけしめやかに装っているのかが分かる気がします。(いっけない! おばさまみたくなっちゃう!)きょこちゃんは観察している自分に気付くとゾッとしてしまい、慌てて目を伏せました。

 お焼香が終わり、近しい人たちは火葬場に行くことになりました。おばさまは目をキラッと光らせながら、葬儀委員長を呼びました。

「はい、何でしょう?」

「火葬場へは塩のおにぎりとお酒だけですよ。よござんすね。先の時に海苔のついたおにぎりを出した所があったっけかが・・・・・・あれはしきたりと反するんですよ。・・・・・・せいぜい黒ごま塩ならなんとか・・・・・・それと、中には何も入れないでしょうね。(確認しながら)あ・・・・・・、うん、それならよござんす。あとはお寺さんにお供えする豆腐を忘れないように・・・・・・お酒は1杯ずつ回る分だけにしときなさいね。多く飲ませるのはよろしくないし、残ったお酒は置いてこなけりゃならないんだから・・・・・・。うん? 何故そんなことも知らないの? 持って帰っちゃいけないの・・・・・・どうして・・・・・・? そう決まってるんですよ。代々そうしてきているから・・・・・・とにかく、テキパキと段取りよくしてくださいよ。わたくし? わたくしは火葬場からみんなが帰ってくるまで精進落としの会場で休ませてもらってますよっ・・・・・・年寄りには毒だから・・・・・・はい・・・・・・はい・・・・・・。よござんしょ・・・・・・この子と一緒に送ってくださいね。この会堂の椅子は硬くてかなわない・・・・・・。疲れますよ・・・・・・」

 という次第で2人は第2次会場の料亭へ送ってもらいました。用意された休憩室に入ると、枕を用意させたおばさまは横になりました。

「疲れたんですか?」

「なあに、大したことはないが・・・・・・、芯がつかれるよねぇ、お葬式は・・・・・・それに子供の面倒も見ているし・・・・・・。」(えっえ!!・・・・・・なあにそれって!! 子供ってきょこちゃんのこと?!)きょこちゃんは反論しかかったのですが、お母さんとの約束があります。ぐっと言葉を飲み込みました。でも・・・そのお陰でおばさまはすぐにスウスウ寝息を立てて眠ってしまいました。

(フゥーッ! やれやれだわっ!・・・・・・あーあ・・・・・・)きょこちゃんもおばさま流に言えば、芯が疲れていました。そして、いつの間にか眠ってしまいました。

文吾郎おじさんの信念

 「ちょいと! いつまで眠っている気かい? もうみんな到着したよ。しょうがないねぇ、わたくしが起こしてやらなくてはならないなんて・・・・・・。夜が明けちゃうじゃないか・・・・・・。」

(おばさまだって今起きたばかりじゃないの? お髪がばらばらしてるもの。あら・・・・・・?あれはなに? うふっ! かもじじゃない! なぁんだあ、おばさまだって使っているのねぇ・・・・・・。)

 おばさまは普段、ご自分の豊かな髪をとても自慢していました。そしてご自身を高貴な貴族的容姿だと思っていました。外見は身ぎれいで高価なお召しを上手に着こなしていましたからそう見えるかもしれません。(でも、中身は!!)

 会食が始まりました。そしてまた扇子に隠してのひそひそ話も再開しました。

(はぁーあ(ため息)。文吾郎おじさんは? どこかしら?)

おじさんは下座の方に小さくなってまるでみんなから姿を見られたくないように、誰にも話しかけず1人でぽつぽつと食事をとっていました。(結婚式の時はあんなに朗らかで元気のいい人だったのに・・・・・・。)きょこちゃんは心が痛みました。オールドミスと決めつけられていた女医さんがその文吾郎おじさんの方に向かって話し始めました。

 「うちの病院の小児病棟患者の障碍者施設に、医学を志す人のために多額の助成金を信託にしてくださった方がいるの、6年前に。それで今年はね、いよいよ医師国家試験に合格者が出たのよ。これから、他の子供にどれほど励みになるか・・・・・・。」

 文吾郎おじさんはその話にはっとした感じで顔を上げました。ところがおばさまが口をはさみました。(大人はどうして人の話の途中でお口をはさんでもいいのかしら? 子供と同じように、いけないんじゃないの?)

 「まぁ、慈善もたいがいにしておいた方がよござんすねぇ・・・・・・。そんなことばかりして失敗した人をわたくしは知ってますよ・・・・・・。」文吾郎おじさんは再びうなだれてしまいました。

穏やかな声の女医さんでしたが少々声をとがらせて

 「あらっ!おばさま。お言葉を返すようですが・・・・・・、お兄さんの事業の失敗と慈善はなんの関係もありませんよ。(この女医さんは文吾郎おじさんの末の妹さんだったのです。)

 名前を明らかにしていないこの慈善はきっとお兄さんだと思うのです。ね? そうでしょう? お兄さん。だって何年も前にこの施設の話をしたことがあるんですもの。お兄さんに・・・・・・。その時、障害があるからといって医学への道を進めない学生がいることの話もしたんですもの。」

 「なら・・・・・・その信託金とやらを返してもらったらどうなの? 会社がつぶれてお金に困っているのに、おちぶれてもなにかい? 見栄の方が大事なのか?」今度はおばさまの言葉で座は完全に静まり返ってしまいました。全員かたまってしまいました。お料理を口に運ぶ手も、お酒を飲む口も止まっています。

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