第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』⑥

「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話
きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。
救急外来での診察 2
「はい! ちょっと頭をチェックするよ。」先生はきょこちゃんの頭をいじり回してから
「どこか痛くない? 首は? ここはどうかな?」と、1ヶ所ずつ聞いてくださいましたそして最後に、軽くポンポンときょこちゃんの頭をたたくと、
「おおっ!! いい音だっ!! いい脳みそがしっかり入っているようだな。」とまたまた大声で話されるので、聞こえた人たちはみんなクスクス笑いました。きょこちゃんはさっきまでのことをケロッと忘れ、この先生を好ましく思い始めていました。
サイトウ先生とは違う表現のやさしさを感じたのです。
「はい! レントゲン写真できました。」
「おっ! 来たか。 はい! ありがとう、おおっ!! いい骨だっ! 君の骨はなかなか素晴らしいぞっ! しっかりしてる。ただなぁ、ここのところ、ここのところが今回けがしたところかなァ・・・・・・でも、骨が折れてることも、ヒビが入っているのでもなく、腫瘍でもないしなァ。どうなってるんだろう! ほら、ここです!!」先生はレントゲン写真を指さされました。
きょこちゃんの右足の膝関節の上下から足首まで写っていました。
「ほら、ここの白い塊とこの白い筋。多分内出血だと思うけど・・・・・・骨から出血するのは変だし、一応念のため血液検査をしておきましょう。」先生は骨にできる怖い病気だといけないと思われたのです。
「15ccとっておいて。」看護婦さんが注射器できょこちゃんの血を採り始めました。腕に刺した空の注射器の中にきょこちゃんの血液がチューッと上がっていきます。
「あっ! お母さん! どうされました! 誰かっ!」気の弱いお母さんはきょこちゃんの血を見た途端貧血を起こして倒れてしまっていました。
「本当に大丈夫ですか?」心配そうな看護婦さんに見送られ、足を湿布と包帯でグルグル巻きにされたきょこちゃんとお母さんはタクシーで家まで帰って行きました。血液検査の結果は1週間後です。とりあえず、痛みと腫れが引くまでは絶対に足を床につけないこと、と注意を受けていました。
お布団の半分を折り返して、そこに寄りかかるように座らせてもらいながら「ねぇ、お母ちゃん、心配してる? きょこちゃん、少女ポリアンナのように車いすになっちゃうのかなァ? 少女ポリアンナって知ってる? ポリーとアンナという2人のおなさんの名前をもらった、すごくやさしい心のきれいな子の物語よ。そしてね、ケガをして歩けなくなっちゃうの。するとね、今までポリアンナに励ましてもらってた町中の人たちが彼女をお見舞いしてね、一生歩けないかもしれないポリアンナを元気づけようと、それぞれが良い人になりますってお約束するの。でもやがてポリアンナの足は治って歩けるようになるのだけどね・・・・・・ねぇ、お母ちゃん・・・・・・」
「あーあ、本当にびっくりしたわ、でもそれだけしゃべれるところを見ると足は心配な病気じゃなさそうね、きっと・・・・・・。」
お母さんは半ばあきれ顔で、ラーメン屋食堂の忙しい時間に間に合ってよかったと思いながらお店に出て行きました。
よっちゃんとみぃちゃんの銭湯行きは、ゆみちゃんのお母さんがゆみちゃんと一緒に連れていってくれることになりました。
「よかった!! それだけが気掛かりだったのよ。ゆみちゃんありがとう。」
きょこちゃんは大人びた口調でそのことを言いに来てくれたゆみちゃんにお礼を言いました。
歩けなくっても学校!?
さて、翌日からが大変でした。歩けないので学校はお休みするもんだとばかり思っていたきょこちゃんに
「頭と口は何でもないんだから、学校に行くように。」とお父さんとお母さんは考えていて、お母さんがおぶって学校まで連れていってくれることになってしまいました。
「いやだァ! 学校のみんなに赤ちゃんみたいだって笑われちゃう!」
「そんなことありませんよ。お母さんが先生に説明してあげるから。」
きょこちゃんはみんなに見られないように、少し遅刻して学校に連れていってもらいました。けれども教室に入ったら担任の先生をはじめ全部の生徒がきょこちゃんのケガのことを知っていてみんなで大事に出迎えてくれました。
「大丈夫?」
「フサ子ちゃん! みんなも・・・・・・」
「そっ! アタイが言っといたげたの、カンの馬鹿が喜んでなんか言ったらやだもん。」
「・・・・・・うん・・・・・・」
「さあ! きょこちゃんお席に座れる? もし痛くなったらえいせいしつ保健室へ行きましょうね、お母さん、どうぞご心配なくお帰りください。あとは私が・・・・・・。」
担任の若い元気な小川先生がうけ合ってくださいました。小川先生は今年新任で、休み時間には必ずみんなと一緒になわとびやゴム飛びをして遊んでくださいます。髪を後ろにきりっとお団子にまとめているので「おだんご先生」と呼ぶ子たちもいました。最初の1週間先生は、休み時間になると必ずきょこちゃんをトイレまでおぶって行ってくれました。きょこちゃんが「トイレ行きたい」と言わなくてもいいように、必ず連れて行ってくださったのです。
2週間目からは松葉杖が届き、フサ子ちゃんやなんと・・・・・・カンちゃんまで、教室移動の時荷物を持ってくれました。
そして驚くことにそのうちにランドセルを持って登下校を付き添ってくれるようになりました。
「カン、あんた来ないでもいいよっ!」
「るっせいぞっ! ブチャコ!」
「あっ! ブチャコって言うんならきょこちゃんのランドセル持たしてあげないっ!!」
「オレはなぁ、小川先生から頼まれてんだぞォ! 力があるから手伝ってあげろって!
先生、オレを信頼してるって言ったんだぞっ! ざまあみろっ!!」
「ふん! きょこちゃあん! カンを追っ払ってよっ!」
「フサ子ちゃん楽しそう! 案外カンちゃんと気が合うのかもよ。」
「なっなっ、なにを言ってんのよっ!」
「ジョーダンじゃないよっ!! ってんだ!!」
病院で調べたきょこちゃんの血液検査の結果は問題ありませんでしたが、足が完全に治るまで7ヶ月を要しました。
関連記事
第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』③
「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話 きょこちゃんの「愛」たっぷりのスト ...
第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』①
「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話 きょこちゃんの「愛」たっぷりのスト ...
第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』⑤
「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話 きょこちゃんの「愛」たっぷりのスト ...
第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』④
「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話 きょこちゃんの「愛」たっぷりのスト ...
第十三話『きょこちゃん、学校をつくる』⑧ 完結
「こんな大人に愛った(あった)から」第十三話 きょこちゃんの「愛」たっぷりのスト ...