第十話『おじちゃんを飼ってください』②

「こんな大人に愛った(あった)から」第十話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

おじちゃんと世間ばなし

次の日、お給食のパンとおかずを注意深く隠し持って急いで広場にやってきました。

おじちゃんは・・・・・・? いませんでした。がっかりして暫(しばら)くいつもの小さな土管に座っていると後から「やぁ! きょこちゃん! 来てくれたの。」おじちゃんの声です。おじちゃんは肩から大きな木の絵具箱を持ってどこからか帰って来たところのようです。

実はこのおじちゃんは元々美術の先生で、今は看板や紙芝居や広告のさし絵を描いて生活していたのです。

「おじちゃん、お給食、持ってきたの、一緒に食べましょ。」

「えっ? それは嬉しいなァ。」

おじちゃん、本当は食べ物に困ってはいませんでしたが、きょこちゃんの申し出をあり難く思い受け取ることにしたのです。

おじちゃんがパンにおかずをはさんで食べ始めたのを見てきょこちゃんは心からホッとしました。

昨夜はおじちゃんがお腹を空かせているのではと心配で、夕食をしっかり食べられませんでしたし、よく眠れなかったのです。

「おじちゃん、昨日のお話の続きだけどね、きょこちゃん家(ち)、ちょっと前に世田谷から越してきたばかりなの。お父さんは大工の棟梁でね、世田谷のお家には大工さんの見習いがどっさり一緒に暮らしてたのよ。でもね、東京都の何かの都合で、どこかにお引っ越ししなくちゃならなくなったの。」 

「ああ、整地改革だな、そりゃぁ。新聞で読んだなァ。確か。でもそのことで立ち退きする家は近くに代替地が提供されたんじゃなかった?」

「うん、他はそうなんだけど、うちだけはちがったのよ。だから借金してお母ちゃんのお兄さんの家の隣に越すことになっちゃったの。」

子供の前で話をしなくても、子供は大人の考えている以上にいつの間にか情報をつかんでいるものです。きょこちゃんもここ4ヶ月の間に起きた家の出来事を、ちゃんと知っていました。

きょこちゃん家(ち)の引っ越しのわけ

事の始まりは5年も前にさかのぼります。お父さんと材木屋さんのおじさんが焼鳥屋さんでお酒を飲んでいる時、そこで働いていた山下さんという人と出会ったことから始まりました。

山下さんは終戦後、満州から着の身着のまま、一文無しで家族と引き揚げてきた人でした。満州では法律の仕事をしていたそうです。日本に帰ってきたものの職はなく、年をとって働けない父親と奥さん、子供5人をかかえ、苦しい生活を送っていました。なんとか働き口を見つけたものの1人の働きでは、アパート1間借りるのが精一杯でそのアパートからは、病人や子供が多すぎるから出て行けと言われていました。夫婦2人だと嘘をついて入居していたのです。

行くあても助けてくれる人もいないので困っている時、大工の棟梁と材木屋さんとが飲んでると気付き、そういう職種ならよいアパートを知っているかもしれないと思って身の上話をしたのでした。きょこちゃんのお父さんは、寝たきりの、年をとった山下さんのお父さんのことを聞いて同情してしまいました。

アパートの小さな部屋にはいつも寝ている場所がないため、押入れの中に布団を敷いて寝かせているけれど、暑くてあせもができるので、山下さんは仕事から帰るとずーっとうちわで煽いであげていたそうです。

お父さんはよいアパートが見つかるまで家に来たらどうかと申し出ました。世田谷の家の敷地内に仕事小屋2棟と材料置き場があったので、その1つを住めるようにしてあげようと考えたのです。

すぐに大工さんたちと1つの仕事小屋の土間に板を張り畳を入れました。電気は母屋から引いてありましたし、住み込みの人たち用のトイレとお風呂、井戸と炊事場がありましたから、当座はそれで間に合ったのです。

山下さん一家が越して来た日の事をきょこちゃんは、はっきり覚えています。

それまで6畳1間で、8人暮らしをしていた人たちが見た新しい住まいは、粗末ではありましたがとても広々していました。

仕事部屋だった所でしたから12畳の畳を入れても板張りのスペースも同じくらいに広く、また土間も同じ程度の広さがあったのです。山下さんのお父さんは手を合わせて泣きながら拝んでいました。

「地獄に仏とは、このことだ。」と喜んで言っていました。お布団もボロの塊のようだったので、大工さんたちの予備をお母さんが打ち返してあげました。

「なるべく早くアパートを捜します。」と山下さんと奥さんは何度もお礼を言いました。

お父さんは困った時はお互いだ、そのうち運が向いてくることもあるでしょう、と思っていたようです。

山下さん入居後から1週間後に同じような事情の早川さん一家も住まわせることになりました。早川さんのところは3人家族だったのでお風呂場を作ってあった作業場を壁で仕切り、やはりこちらも急ごしらえの部屋にしました。

それからというもの電気代の支払いが3軒分になって、お母さんは月末になるといつも泣きそうになっていました。おまけに職人さんたちからは、お風呂に入る時間などに気を使うようになったと、不満も出るようになったのです。

山下さんと早川さんはアパートを探しているのになかなか見つからず5年目になりました。

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