第七話『きょこちゃん、田舎に行く』⑩ 完結

「こんな大人に愛った(あった)から」第七話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

おばさん家(ち)でのふたつめの決心

6日目にきょこちゃんはどうしてもしなくてはならないことがありました。それはおばあさんを迎えに行くこと! です。昨晩の夕食の時おばさんが

「おばあさんもう2週間になるに、いっこうに帰ってきませんねぇ、やっぱり迎えに行ったほうが・・・・・・。」

「やめとけ、やめとけ」

と、おじさん。おじいさんは縁側でキセルをふかしていましたが、でもその後ろ姿がなんとなく寂しそうでした。
そこできょこちゃんはおばあさんを迎えに(もとはといえば、きょこちゃんのことからですもの)行こうと決心したのです。

おばあさんの実家は農協の上の方にあると聞いていたので、きょこちゃんは家の人が出かけるのを待って、朝早く家を出発しました。

バスの通る道は川に沿ってあるので、その1本道をずっとたどっていけば農協前に簡単に着けます。きょこちゃんは暑い中、ミンミンミンというセミの鳴き声を聞きながらせっせと歩いていきました。舗装していない土の道でしたからすぐにきょこちゃんは埃で真っ白くなってしまいました。それでも1時間ほどで農協前に着きましたが、思っていたよりたくさん家があって、どの家がおばあさんの実家かわかりません。でもそんなことでへこたれるきょこちゃんではありません。

汗びっしょりになりながらも大きな声で「六車のおばあさーん!」と呼びながら歩きました。そのうちにある1軒の小さい家の前に来た時、その中から小柄なおばあさんが走り出してきました。

「あんたは六車のお頭の家から来た子かい?」

「はいっ!」 

「あーよかった!」

小柄なおばあさんは嬉しそうにまがった腰を伸ばしてから

「さぁ! どうぞ! 六車のおばあさんは家にいるよ!」

と言って家の中に招き入れました。

「誰だい!」 

「あたし、きょこちゃんです。おばあさんをお迎えに来たの。」

「どうやって来たんだぇ?」 

「1人で歩(ある)ってきたんです!!」

きょこちゃんは胸を張って言いました。

「なんと!!」 

「誰かに行けって言われたのかぇ?」

「いいえ、誰にも言わないで来ちゃったの」 

「どうして迎えに来たんだい?」

「だって・・・・・・だって・・・・・・みんなおばあさんのことを心配しているんですもん。」

「あーら、よかったじゃない、ねーさん。」

小柄な腰のまがったおばあさんは六車のおばあさんの弟の未亡人で一人暮らしです。実家ですから帰れとは言えないのですが義理の姉さんのわがままにうんざりしていて、誰か迎えが来てくれたらと心待ちにしていました。

一方おばあさんも六車の家に比べると狭いうえに蒸し暑く、おまけに世話をしてくれる人もいませんから帰りたくなっていたのですが、誰も迎えに来てくれないので、少々困り始めていました。

「まぁそんなにみんなが思っているなら・・・・・・。」

「それがいいよぉ! すぐにハイヤーを呼ぶよっ!」

実家のおばあさんは姉さんの気が変わらないうちに早く帰したくて急いで車を呼びました。

「言っとくがね、あたしゃ、帰りたい訳じゃないけど・・・・・・皆が心配しているんならしょうがないじゃないか・・・・・・。自分たちが来られずにこんな小さな子をよこしてまでさぁ」

「そうよ姉さん! この機を逃しちゃなんないよ。」

というような訳できょこちゃんは帰りは歩かずハイヤーでおばあさんと2人で帰ってきました。

秘密のおしごとの成果?

家に着くとおばあさんは疲れたからといってお部屋に入ってしまいましたのでみんなが帰った時には履物とカバンが目に入っただけでした。それでも

「おやっ! おばあさん、ご帰還ですか。」

「ずーっと帰ってこないなんて幸運はないと思っていたけど・・・・・・。」

「こら正男、そんな罰当たりなことを・・・・・・。」

「おばあさん、ご機嫌直ったのかな?」

おばあさんの帰宅に気付いて、それぞれがそれぞれの言葉で話し始めましたが、家中のみんなが一様にホッとしていることを窺い知ることのできる空気でした。

「どおれ、おばあさんの好きなジャガイモ入りのお麺めでも作ろうか」と、おばさんが台所に立ちました。

「あのう・・・・・・おばさん・・・・・・。室(むろ)のジャガイモ・・・・・・もうないと思うの。」

「はて? ここのところカボチャを使っていたから気付かなかったがナァ」

そう言って室(むろ)を開けてみてびっくり!! 

「おやっ! まぁ!! なんと!! ジャガイモが消えてる!!」 

「どれどれ」 

「ねずみじゃないかい?」とお坊。

「ねずみなもんか。他の物は何も手をつけてない。」 

「変だねぇ?」 

田舎では次の収穫があるまで低温の室(むろ)にしまった野菜を食べて暮らしているので、今ジャガイモがなくなったら次にジャガイモが収穫できるまでジャガイモを食べられないことになります。

みんなが困った空気に包まれていました。きょこちゃんは、みんなを喜ばせようとこっそりしていたことが、何やらとんでもない悪事だったのかと心配になってきました。

「あのね・・・・・・きょこちゃん・・・・・・みんなを喜ばせようと思って、あのね・・・・・・グスン・・・・・・きょこちゃんね・・・・・・ジャガイモをね・・・・・・ぜーんぶ片栗粉にしちゃんたの・・・・・・うっうっごめんなさい・・・・・・。」

「なんと、まぁ!!」

みんなは意外なことの成り行きにびっくり!!

「ぜんぶ作ったのか?」 

「・・・・・・ハイ・・・・・・うっうっうっ。」

「どこにその片栗粉あるんだい?」 

「あのね・・・・・・あそこ・・・・・・。」

きょこちゃんが指をさした納戸をお坊が開けました。

すると!! そこには絹糸用の袋に入った片栗粉が5袋もありました。

「おい、おい、こりゃあ上質な片栗粉だい。」

と、中身を確かめた正男お兄ちゃん。

きょこちゃんはがっかりして、泣き出しそうになっていました。

おばあさんのナイスアイデア

「何だい、なんだい!! 騒々しい!!」

おばあさんがいつの間にか部屋から出てきて皆の後にいました。

「あっ! おばあさん! ごめんなさい!! きょこちゃんね、みんなを喜ばせようと思ってジャガイモを片栗粉にしちゃったの・・・・・・。」

「それで・・・・・・? 何が困るんだぇ?」

「だって・・・・・・だって・・・・・・ジャガイモをぜぇーんぶ使っちゃったんですもん。おばあさんの大好きなジャガイモ入りのお麺め作れなくなっちゃったの・・・・・・ヒック、ヒック・・・・・・ウェ~ン!!」

「ああ、ああ、やかましいから泣くななくな。大の大人がガン首揃えてて、この子の手が傷だらけなこと、気がつかなかったのかぇ? あたしゃ子のが迎えに来て、あたしの手を引っ張った時すぐに気がついたがな」

言われてみんなはきょこちゃんの手を見ました。その手はがさがさして傷だらけで田舎の子供たちより荒れていましたからみんな驚いてしまいました。

「おやげねぇよう。(=かわいそう、健気などの意味)」

おばさんの目には見る間に涙があふれてきました。

「なぁんだ、きょこちゃんがおばあさんを迎えに行ったのか」

「うっほん!! そんなことはどうでもいい!! この片栗粉、正男の農協で売りやぁ、いいお金になるじゃないか。そしたら・・・・・・ジャガイモなんざいくらでも買える!! ちっとは頭を使え!!」

「あーあそうだ!! おばあさん!!なかなかいいところに気付いてくれた!!」

「ふん!! だてに年とってるんじゃないんだ!! あたしゃ!!」

「でも・・・・・・、おばあさんの好きなジャガイモお麺め、今夜は間に合わない。せっかく帰ってきたのに・・・・・・。」

「ふん!! 馬鹿の一つ覚えみたいにジャガイモ入りお麺めが好きだなんていうなっ!! あたしゃカボチャ入りの方が好きなんだからっ!!」

「ええっ!!」

「カボチャ嫌いだったじゃない、汁がにごるからって・・・・・・。」

「ふん!! 人の好みは変わるもんだ!! 悪いかえぇ?!」

「いいえ、いいえ、とんでもない、すぐに支度しますから・・・・・・。」

「そうしとくれよ、あたしゃ疲れてお腹がすいて死にそうなんだから・・・・・・。まっ、あたしが死のうとどうしようと平気だろうがねぇ。」

「ううん、ちがいます!! みんなおばあさんのこと大好き!! になりたいの。もしおばあさんがそうした方がいいならっ。」

「ふん!! みんな好きにしたらいいさっ!!」

とおばあさんは毒づいたのですが、きょこちゃんにはその言葉が「好きになっていいよ」と言ったように受けとれました。

「わぁーい!!おばあさんありがとう!!」

思わずきょこちゃんはしかめっ面のおばあさんに抱きつきました。皆もニコニコ顔で見ています。今度ばかりはおばあさんも「ふんっ!!」とは言いませんでした。

コロコロコロコロどこからか、家に迷い込んだこおろぎが鳴いています。田舎の夏の日がこうして過ぎていきました。

 

おわり

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