第五話『おばあちゃんを買いたいの』⑥

「こんな大人に愛った(あった)から」第五話
きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。
おばあちゃんは?〔その1〕
「ごめんくださぁい。」
2人がおばあちゃん家(ち)の玄関を開けると、ボロが転がるように出てきました。
「あっ!! ボロッ!! おばあちゃんは?」
「いらっしゃいませ」
奥から、おばさんが出てきました。
初めて会う人でしたが、眼もとやお顔の丸いところが、おばあちゃんそっくり!!
「突然におじゃまして、申し訳ありません。私はこういう者です。」
「わたしは、きょこちゃんです。」
おじちゃんは、名刺を出して渡し、きょこちゃんは、ピョコンとおじぎをしました。玄関の上がりかまちには、ふくらんだ柳こおりをヒモでゆわいたのが、置いてありました。
「おばあちゃんは? もう帰っちゃうの?」
おばさんは名刺を持ったまま、きょこちゃんとおじちゃんをかわるがわる見ながら言いました。
「きょこちゃんには、すっかりお世話になったんですってね。本当にありがとうございました。私は昨日退院してきたんです。母は・・・おばあちゃんは、ちょっと前にお別れ言うのつらいからって、田舎へ帰ったんですよ。だれも駅まで見送らなくていいって言って・・・私の身体、心配しているんです、きっと。」
「だって、だって、お荷物あるじゃない。ボロだっているじゃない・・・」
「汽車で帰るのに、持って行けないお荷物とボロは、後からチッキで送ることになってるんですよ。」
「でも・・・でも・・・」
「このところ何日か、きょこちゃんに会っていないのが、心残りだけど・・・って・・・、あっ、そうそう、ちょっとお待ちください。」
おばさんは、奥からきれいな包装紙で作った紙袋(おばあちゃんは、よく広告の紙や包装紙で封筒や袋物を作っていました)を持ってもどって来ました。
「これは、おばあちゃんがきょこちゃんが来たら渡してねって、預かったんですよ。」
「・・・・・・」
手渡された紙袋は、まだホンワリ温かく、中にはピンクと白のあられが入っていました。きっと、おばあちゃん、帰るまであられを揚げてきょこちゃんのことを思っていてくれたのでしょう。
悲しげなおばあちゃんの小さな姿が、思い浮かびました。
「うっ・・・、うっ・・・うっ・・・」
「あっ・・・泣かないで・・・泣かないでよ、きょこちゃん。実は・・・」
おじちゃんは、きょこちゃんの肩に手を置いて話し始めました。
「こちらには、素晴らしいおばあちゃんがいらっしゃるということで―――ヨモギ草ダンゴや、おやきや、お手玉や、漬け物や、何でもできる、きれいなすばらしいおばあちゃんが―――。でも、そのおばあちゃんはこちらの子じゃなくて、ご自分は年寄りできたないから、必要な人間じゃないと思われているようで・・・このきょこちゃんが私共のデパートへ見えて、何でも仕入れて売るデパートなら、こんなにすごい素敵なおばあちゃんを仕入れて下さいって頼まれたんです。きょこちゃんは欲しくてたまらなかった、このミルク飲み人形をもらったのでそれと取り換えてと頼みに来られたんです。こんなに小さなお嬢ちゃんがそんなに欲しがるおばあちゃんに是非ともお会いしたくって、失礼とは思いましたが伺ったんです。」
「まぁ、そうだったんですか。」
おばさんの目には、みるみる涙があふれてきました。
「きっと、大介がおばあちゃんにつらく当たったんですわ。反抗期なもので・・・」
「ちがわぃ!! 本気じゃ、なかったんだぞっ!! おばあちゃんなんか、帰っちゃえなんて、本気で言ったんじゃなかったんだぞっ!!」
いつの間にか、大ちゃんが後ろに立っていました。
「おばあちゃん、いつ出掛けたんだ?」
「そうねぇ、お2人がみえるちょっと前だから、30分位前かしら。」
「きっと、きょこちゃん家(ち)へ寄ったから、すれ違ったんだよ。」とおじちゃん。
「おれ、迎えに行って、連れ帰ってくる。(きょこちゃんの方に向いて)おばあちゃんはうちの子だぞっ!! 仕入れたりさせるもんかっ!!」
「まぁ、大ちゃん、落ち着いて、もう間に合わないわょ。」
「そんなことないぞっ!! おばあちゃん、足がのろいから、まだ駅まで着いているもんかっ!! ちょっと、待ってろよっ!!」
言うが早いか、大ちゃんはつむじ風のように飛び出して行きました。もちろんランドセルは、ほっぽり投げてです。でも、みんなは何だか、とってもうれしいような気持ちになりました。
「さぁ、こんな所ではなんですから、どうぞお上がり下さいませんか。」
カテゴリー
- 簡単レシピ集
- 第一話「きょこちゃん、川に行く」
- 序
- 第二話「きょこちゃん、お姉ちゃんになる」
- 1.人のプロをめざすプロローグ
- 「人のプロ」が作る日本料理
- 第三話「きょこちゃん、花を売りに行く」
- 2.Beプロフェッショナル
- 詩/言葉/歌集
- 第四話「きょこちゃん、サンタクロースの家に行く」
- 3.人のプロとなるケーススタディー
- 「こんな大人に愛ったから」シリーズ
- 第五話「おばあちゃんを買いたいの」
- 4.人のプロは自分で判断する
- 第六話「きょこちゃん、大学に行く」
- 第七話「きょこちゃん、田舎に行く」
- 第八話「きょこちゃん、学校に行く」
- 第九話「きょこちゃん、よっちゃん、汽車に乗る」
- 第十話「おじちゃんを飼ってください」
- 第十一話「きょこちゃんとシンデレラのお鍋」
- 第十二話「きょこちゃん、銭湯に行く」
- 第十三話「きょこちゃん、学校をつくる」
- 第十四話「きょこちゃん、醤油工場に行く」
- 第十五話「神様との約束」
- 第十六話「きょこちゃん、お葬式に行く」
- 第十七話「きょこちゃんと新婚旅行」
- 第十八話「きょこちゃん、銀座へ行く」
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