第三話『きょこちゃん、花を売りに行く』①

「こんな大人に愛った(あった)から」第三話

きょこちゃんの「愛」たっぷりのストーリー。

きょこちゃん街に行く

「ねえぇ、お母ちゃん、お母ちゃんてばぁ」

きょこちゃんは、※ねんねこのお袖を引っぱりました。(※赤ちゃんをおぶった上に着るコート)さっきからおんなじお店の前を通るのが4回目だと気づいたのです。

「ねえぇ、お母ちゃん、どうしてお店に入らないの? ねえぇ。」

 きょこちゃんは、不思議で仕方ありません。だって、どこかのお店に入るはずが、よっちゃんをおんぶしたお母さんはどこにも寄らず、何回も何回も同んなじ通りを歩いているんですから…。

両側に10数軒、お店の並んだこの商店街には、元農場と呼ばれるきょこちゃんの家から歩いて30分位で着きました。着いたばかりの時、お母さんは元気でしたし、きょこちゃんも初めて見るお店に大喜びで、戸口が開いて商品が並んでいるお店に一軒一軒寄って、お店の人とおしゃべりをしたりしました。そんな時、お母さんは、

『きょこちゃん、日が暮れちゃうわよ。』

―――と必ず、急かせては歩き出すのですが―――

「ねえぇ、お母ちゃん、きょこちゃん、おなか空いちゃったの。」

足も少し痛かったのですが、そうはいいませんでした。

『きょこちゃんはお姉ちゃんだから、トットコ歩けて、えらいでしょ?』って、よっちゃんに言っていたので、足が痛いから、トットコ歩くのイヤになっちゃった、なんて言えなかったのです、

お魚さん、ねむっているの?

 街に着いた時、まず、きょこちゃんが寄ったのはお魚屋さんでした。黒いゴムの長い前かけをかけたおじさん達が、バケツで水をザバーッと板の上にかけてから、お魚を並べられています。

「わぁーっ、すっごーい!!」

板の上には、同じ種類のお魚がお行儀よく、きちんと並べられています。

どのお魚も大きくて、とっても立派に見えました。

「ねぇ、おじちゃん。おじちゃん家(ち)のお魚さん達、どおして目を開けたまま眠っているの?」

「眠ってる? あーぁ、そーか、眠ってる間に、料理されちゃった方がいいからだろ。」

「目を開けたまんま?」

「そう、目を開けたままさ。」

「でも…でも…」

きょこちゃんがいつも見るお魚は、お父さんや八郎おじちゃんが玉川で釣って、バケツの中でピチピチ泳ぎ回っていました。

「おじょうちゃんは、魚、食べたことないのかい?」

「うぅん、そんなことないわ。いつも…というか、時々食べてるもの。」

おじさんが笑いながら聞くので、きょこちゃんは、ちょっと気分を害して答えました。

「きょこちゃん家(ち)に行商さんっていう、お魚屋さんが来てね、いつも、そのお魚屋さんから買うのよ。そのお魚はみんな、とってもぺっちゃんこか、お目目なんてついていないもの。」

「はっはっはっはっ」とおじさん達は笑いました。

「そりゃ、干物と切身だろ。」

「今度、眠ってるやつを食べて見な。うまいぞぅ!!」

笑いながらも手を休めずに、氷を砕いたり、きょうぎに数字を書いた札を並べたりしています。

「それなぁに?お魚さんのお名前?」

「あっ、これかい? これは値札っていうんだよ。」

「ふぅん。」

きょこちゃんは、お父さんや八郎おじちゃんや職人さん達に値札のついた、この眠っているお魚たちをあげたら、どんなに喜ぶかしらと考えていました。

玉川で釣ってきたお魚を八郎おじちゃんが、

「うまそうだ。姉さん、塩焼きにしてよ。」とお母さんに言った時、

「ダメェ!! ぜーったいダメェ」と泣いて、止めさせたことを思い出しました。

その時以来、きょこちゃん家(ち)では、玉川で釣ってきたお魚は、後でまた、きょこちゃんが寝ちゃった後に、玉川に返すことになっていました。

「あーあ、活きのいい魚が食べたいなァ。」と八郎おじちゃん達は、きょこちゃんが、怒るのを楽しいみたいに言うのでした。(もちろん、きょこちゃんが眠った後に、みんなでお魚を食べていたなんて!! ……きょこちゃんは、知りませんでした。)

「おじさん家(ち)の眠ったお魚は、眠っている間に食べられるの、知ってるの?」

「うーんとね、魚は何もわかんないのさ。魚は人間が食べてくれるのが、本望なんだよ。だから食べる時、いただきますって、あいさつするだろ?ありがたいって食べれば、人間の身体の中で血や肉になるんだ。」

おじさんは、ちょっと一生懸命、真顔になって説明してくれました。

「おじちゃん、きょこちゃん、帰りにまた寄って、お父ちゃんや八郎おじちゃん達にお魚、買っていくわ。」

「あぁ、帰りにな。」

「だって、今じゃだめなの、お花を…」

「きょこちゃん!! 日が暮れちゃうでしょ。おじゃまして申し訳ございませんでした。」

お外にいたお母さんは、なぜかお顔を赤くして、急いできょこちゃんを呼び戻しました。

―――それから、もう4回もお魚屋さんの前を通っているのですがいつが帰りなのかさっぱりわかりません。

「ねぇ、いつからいつまでが行くので、いつからいつまでが帰りなの?」

きょこちゃんは、帰りの時が一回もこないので、お母さんに聞いてみました。日もすっかり高くなって、お魚屋さんの店頭には、人がどっさり集まり、さっきのおじさん達の姿は見えません。ただ時折、

「ヒトヨッ、フタヨッ…」とか、「マイドゥ!!」とか、元気なかけ声だけが聞こえます。

「ねぇ、お魚さん達、みーぃんな売れちゃったらどうしよう。」

きょこちゃんは、ちょっと心配になってきました。

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